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の御子

闇纏う青年
「お前が隠れ里の巫女だな?」

何故ソフィーヤが巫女だと知っている。まさか捕らえた里の者から聞き出したのか。
シエルは青年を睨み付けたまま、いつでも魔法を使えるように魔道書を強く握りしめた。

「……ええ」

ソフィーヤは無意識に震える体を押さえつけて頷く。男から感じる力。隠しても尚漏れ出す力は、彼女がベルンから感じた力と同じくらい強大なものだった。

「なら私と共に来て貰おう」

その一言を聞いたシエルはソフィーヤを後ろに、庇うように立ち塞がった。本能は彼を危険だと警鐘を鳴らしていたが、言われるがまま、ソフィーヤを渡す訳にはいかない。

「……愚かな。素直に渡せば死ぬ事もないだろうに」

すぅ、と動かした青年の手から生み出された複雑な闇の魔法陣。同じ闇魔道を扱うシエルには分かる。あれは魔道士の魔力壁すら突き破るルナの魔法だ。
普通の方法では防げない。ならば……相殺すれば良い。青年のルナとシエルが放ったルナが衝突し凄まじい爆音と共に弾けた。

「成る程。ただの闇魔道士では無いと言うことか」

ぞくり、と背筋を何かが駆け巡った。青年を中心に闇が集まって行くような感覚に襲われる。その時シエルの背をすり抜け、ソフィーヤが静かに歩み出た。

「……分かりました。貴方と行きます。だからどうかシエルには……手を出さないで」

「良いだろう」

刹那、青年を取り巻いていた闇が消えた。圧迫感から解放され、初めて自分が極度に緊張していたことが分かる。

「ソフィーヤ!」

ベルンの襲撃を懸念して里を訪れたと言うのに、自分はただ一人の少女さえ守れないのか。
シエルは悔しさを押し殺すように拳を強く握り、唇に血が滲むほど噛み締めた。

「私は……大丈夫。ファやイグレーヌさんを……皆をお願い」

ソフィーヤは笑っていた。滅多に表情を動かさない彼女が優しい、柔らかな笑みを見せる。シエルは竜の血を引きながらも、力無き自分を呪った。自分はこんなにも無力なんだと突き付けられた気がした。

「分かった。……必ず助けるから」

背を向けて歩き出した青年と少女を止める術もなく、絞るように呟いた言葉に、ソフィーヤは微かに頷いた気がした。



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