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の御子

誤算
「よし、決して逃がすなよ」

「だっ、大丈夫でしょうか? このようなことをして……」

「心配するな。今、我が国に敵対する勢力はいくらでもある。ベルン王国の妹姫……どこに引き渡しても一生遊んで暮らせる金を払ってくれるだろうて。どうせこの国に仕えていてもうだつは上がらないのだ。なら手早く金儲け出来る手段を考えた方がいいだろう。うん?」

 これはルードの一世一代の賭けと言ってもいいだろう。もし自国の王妹を売り渡したと知れれば死は免れないだろう。それどころか一族郎党にも処分が下されるかもしれない。
 ここ数年大陸には戦の影さえなかった。それなのにベルン王国は突如として他国へ侵攻した。瞬く間にサカ地方を征圧し、リキアやイリアにまでその手を伸ばしている。ベルンに敵対する勢力は数えるのも煩わしいほど。ベルン以外の大陸の国々、と言ってもいいだろう。あのエトルリアとてこのままベルンの侵攻を見ているとは思えない。ベルンが侵攻した事により大陸の力のバランスは崩れようとしていた。
 ルードはそれほど武芸に優れているわけでも貴族でもない。ベルンの中で出世をするならば必須とも言えるものを彼は持っていなかったのだ。ならばどんな手段でも取ってみせる。例えそれが主君への裏切りだったとしても。忠誠など一銭にもならないのだから。

「は、はい……ですがそのご計画には一つだけ問題が……。先程ギネヴィア殿下つきの修道女が逃げ出したとの報告が……」

「何だとっ!? 馬鹿者が! 早くそれを言わぬかっ!? 急いで探すのだ。決して逃がしてはいかんぞっ!」
 

 上司も上司なら部下も部下か。いくら修道女とは言え、助けを求めるくらいは出来る。しかもこの城は国境に近い。もし自国の兵に助けを求められたら一巻の終わりだ。
 部下の失態にルードは顔色を一変させ怒りを爆発させた。修道女を逃がしたこともだが、それを即座に報告しなかったことも怒りの原因である。この際生死は関係ない。ルードの鬼気迫る声に兵士は慌てて玉座の間を出ていった。




 一筋の光すら差さぬ寒々しい部屋。ベルン王妹ギネヴィアはただ祈るしかなかった。最低限の家具は備え付けられているが、明かりは僅かな蝋燭の光のみ。一切の自由はなく、食事は定期的に差し入れられるが、出しては貰えない。
 隙を見てなんとか同行した修道女、エレンだけは逃がしたが、それ以上のことは出来なかった。ミレディは、あの忠実な騎士は何をしているのだろうか。きっと心配を掛けているだろう。それでも、後悔はしていなかった。例えどんな困難が立ち塞がっても決して諦めはしない。戦いを、兄を止めるためにリキアの諸候に会いに来たのだ。
 ギネヴィアは静かに目を伏せ、エレンの無事を祈った。

(エレン……頼みましたよ)




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