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ん …小説
利央誕生日

彼が初めてくれた誕生日プレゼントは、彼の使っていたグローブだった。

次の年の誕生日、彼は初レギュラーの試合で投げたボールを俺にくれた。


彼が中学生になった年の俺の誕生日、彼は俺に、……キスをした。




そして、それが彼から貰った最後の誕生日プレゼントだった。


次の年からはプレゼントどころか、お祝いの言葉さえ貰えなくなった。


彼はまるで、俺の誕生日を無かったかのように振る舞うから、俺も何も言わなかった。







しらないふりをする







「準サーン!」

廊下で知った顔を見かけて、彼のいる場所まで走っていく。
名前を呼べは嫌そうな顔をしながら、それでも立ち止まって俺を待ってくれる。

「今日は何だよ。」

追いついて笑ってみせたら『へらへらすんなアホ』と頭をはたかれた。

「準サンひどいよ…」
「お前がアホなのが悪い。」
「……準サンのばか…。」
「お前にだけは言われたくないな。」

うん、相変わらず酷い。

「うぅ…。」
「で、なんか用かよ。」
「え…あ、……なんでもないよ。」


準サンが見えたから追ってきただけだよ。


そう告げると、彼は『あっそ』と言ってスタスタと歩いて行ってしまった。


本当は、今年はプレゼントをくれるのかと聞きたかったのだけれど。

準サンの顔を見てやめた。きっと忘れてるのだろう。
言えば良かったかもしれないけれど、最後にプレゼントをくれて以来、なんとなく準サンに誕生日の話は出来なくなった。


明日は俺の誕生日だ。



−−−−−−−−−−−

「明日お前誕生日だよな、なんか欲しいものある?」

部活の休憩中、迅に話し掛けられた。

「え、迅なんかくれんの?」
「高くなければだけど。」
「やった!」


迅から貰うのは今年で四回目。
迅は毎年、俺がそのとき好きなものや欲しいものをくれる。

「うーん…今は思い付かないや。」
「明日までに決めないとプレゼント無しだからな。」
「えー!…でもほんとに思い付かないんだよぉ…。」

そのあとも唸りつづける俺に痺れを切らしたのか、迅が提案をしてきた。

「じゃあさ、前に行きたいって言ってたラーメン屋に行ってみる?」
「あ、それ良いね。」
「一日早いけど今日の帰り行ってみるか。」


「今日?」
「うん、早い方がいいだろ?」


今日は無理かもしれない…
だって今日は、きっと…


迅に悪いと思いつつも、今日は用事があるから、と言って断った。
正確にはこれから用事ができるから、なんだけど。


ちょうどその時休憩終了の笛がなり、迅とあわててグラウンドに駆けて行った。




−−−−−−−−−−−


空が真っ暗になった。
ボールも見えなくなったので長かった練習も終わりになった。

後片付けも終わり、あとは着替えて帰るだけになった。


2、3年生はもう帰ったようだ。…1人を除いて。


「早く着替えろー。」

今日の鍵当番は準サンだったらしい。

11月になって冷え込んできたのもあり手が上手く動かず、ボタンを上手く閉められない。


「じゃ、俺先に帰るな。お疲れ利央。」
「うん。迅、また明日ね」

もたもたしている俺とは違い、迅はさっさと着替えて帰って行った。

他の1年も、着替え終わった人から次々と帰っていく。





「お疲れッス」
「おぉ、お疲れ。」


誰かが先輩である準サンに声をかけ、ドアを閉める音がした。
俺を除く、最後の1年が帰ってしまったようだ。


「りおー、おせーよ。」
「わ、ごめん。あとネクタイだけだから…」


とりあえず適当に結んで…あとで直せばいいよね。


「お待たせ準サン。」
「……汚ねぇ結び方。ヘタクソ。」
「今日はもう帰るだけだし良いじゃん。」
「良くねぇよ。お前みたいなだらし無いアホと歩きたくねぇし。」


「え、一緒に帰ってくれるの?」
「うん。てかお前、今日こそ貸したCD返せよ。」
「あ、忘れてたぁ…。」
「ふざけんな今日返せ、絶対今日返せ。」


不機嫌そうな顔をする準サンに不穏なオーラを感じて、あわてて返事をする。


「わかったよぉ。…じゃあ、今日ウチに寄ってかない?ついでに夕飯も食べていきなよ。」
「まじでか。んじゃ、お言葉に甘えて。」


だったらさっさとネクタイ直せよな、と先程よりは幾分か優しい声で準サンは言った。




−−−−−−−−−−−

「「ご馳走さまでしたー!!」」


夕飯のカレーを食べ終わり(お母さんいわく、鍋一つ空にしたらしい。)俺の部屋へあがる。


「あーうまかった。」
「でも準サンあんまり味わって無かったでしょー?」
「球児には質より量なんだよ。」
「まぁ確かにねぇ…。」


とりあえずお風呂は沸いてるみたいだから交代で入ることにした。

「準サン先に入る?」
「いや、俺はあとで良いよ。」
「いやでも一応お客さんだし…。」
「そんなこと気にするような仲じゃねぇだろ。」
「うーん…、それもそうだね。それじゃあお先に〜。」






体を洗って湯舟に浸かりながら考える。


準サンは明日は何の日かわかっているのだろうか。
わかっていて、それで来てくれたのか。



でも、なんとなく来るだろうなぁとは思っていた。
だから今日の迅の誘いを断ったんだし。


どうしてそう思うのか、と聞かれたら答えは一つ。



彼は、毎年うちに来るのだ。
俺の誕生日の、前日に。


そして泊まっていく。
最後にプレゼントをくれた年の次の年から、ずっと続いてきた。





だから俺は期待してしまう。

今年は何かあるかもしれない。
今年は何か言ってくれるかもしれない。



それは毎年砕け散る期待だけれど。







「準サンお待たせ!」
「おー、じゃあ俺も風呂入ってくるな。」


パジャマは俺のものを貸すことになった。
裾がブカブカになるかもしれないけど、まぁしょうがないよね。



眠くなってきたので、ベッドに寝転ぶ。そうしたらさらに眠くなってきた。

準サンに返すCD探しておかないといけないのにな…。


それでも閉じていく瞼は止まらない。

結局俺は睡魔に白旗をあげたのだった。




−−−−−−−−−−−

「利央?」

準サンの声がする。
でも目は開けられない。意識だけがはっきりしてきた。


「寝てんのか?」


ううん、起きてるんだよ。ただ目が開けられないんだ。


心の中で返事をする。
口に出す元気はない。


「ばかりおー、俺のCD返せ。」


ごめんね準サン。机の中にしまってあるんだけど、今は眠くて動けないんだ。


「……寝てるよな?」


本当は起きてるけど、俺はもう目も開けられないくらいねむいんだよ。



「利央……」


ちゅっ、


準サンは、寝ている(ふりをしている)俺にキスをした。

「……誕生日、おめでとう。」





そう、彼は毎年、誕生日の前日に俺の家に泊まりにきて、キスをするんだ。

本当は知ってるんだよ。
毎年、準サンが寝ている俺にキスをくれること。
毎年、おめでとうって言ってくれること。






俺がしらないふりをしているだけだと知ったら、彼はどうするんだろうか。

きっともう、本当にこんどこそ、プレゼントも言葉も、なんにもくれなくなってしまうだろう。


プライドの高い彼だから。





俺は彼のプレゼントがほしくて、しらないふりをする。
だって本当は初めて会った日から、ずっとずっと準サンが大好きなんだ




準サンは、俺が準サンを好きだといつ気がつくだろう。



俺は知ってるよ。準サンが俺を好きなこと。





「おやすみ、利央。」


おやすみなさい、準サン。
また明日。





俺の意識は深い闇に落ちていった。



時計の時報が遠くで鳴っている。


今日は、俺の誕生日だ。


−−−−−−−−−−−


あとがき


長い間放置ですいませんでした…。
本当にすいませんでした…。

せめて利央の誕生日こそは…とおもい、この小説をUPしました。
誕生日なのに…なんか暗いなぁと思った方。それは気のせいですよ(汗

それじゃあ、ここまで読んでいただいてありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!
管理人はかなりのダメ人間ですが、見捨てないであげてください…。

ありがとうございました!!


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