シリーズ −B ( た、助かった・・・? ) 危険が去った安堵に、ずるずるとその場にへたり込み、まだ震える体を両手でぐっと抱き締めた。 いろんな暴力にあってきたけれど、痛いのは怖い。 なれることなんか、たぶん一生、ない。 「大丈夫かー?」 「っ!」 いつの間にか、目の前に人が立っていた。 思わず先ほどの男たちのだれかが帰って来たのかと思い、思いきり後ずさってしまった。 しかし、すぐに気がついた。 声が、男たちの注意を誘った、さっきの声と同じだ。 後ずさった僕を見て、目の前の人物はゆっくりと手をあげて、おどけるように両手を振った。 「大丈夫、大丈夫。僕は、何もしないよ〜」 よくよくその人の顔を見ると、幼い、まだ少年の色を残した顔が、ゆるんだ笑みを浮かべていた。 取り立てて特徴のない平凡な顔をしていたけれど、それがなにより僕の安心を誘った。 僕はおずおずと頭を下げ。 「あ、ありがとうございます・・・」 「どういたしまして。お兄さん、こんなところでどうしたの?ここが、境界線だって知ってる?」 「え!きょ、境界線なんですか・・・ここ・・・」 茫然自失であったといえども、自分のうっかりさに呆れてしまう。 この地域ではいくつかのチームが混在しており、日々縄張り争いが絶えない。 境界線とは、つまりチームの縄張りの境界線ということであり、一番争いが絶えない場所ということだ。 地元の一般人なら、空が暗くなってから境界線に近づくなんてことはまずしない。 そんなこと、この地域に住む人間なら小学生だって知っているというのに。 「うっかり迷いこんじゃったのかぁ・・・災難だったね。」 驚きと恐怖に目を見開いた僕に、目の前に立つ子は、小さく肩をすくめて笑った。 そして、ゆっくりと片手を差し出してきて。 「まぁお兄さん、とりあえず立ちません?そんで、暇なら僕とちょっとおしゃべりしない?」 「・・・おしゃべり?」 「約束してた人間にドタキャンされたんだ。せっかく、時間開けたのにさぁ、ひどいよねぇ!」 この子は一体、何者なんだろうか。 口を尖らせて、怒っているぞ、という気分を体現してみせるその顔は、とてもじゃないが強そうには見えない。 見た感じ、体もどちらかというと華奢に近い気がするし。 それなのに、大人でも恐れる夜のこの街を平気で歩いている、不思議な子。 どう見たって、怪しいはずなのに。 僕は、目を細めて彼を見てから、ゆっくりと腕を差し出した。 「ぼ、僕でよければ・・・」 そう言って手をつないだ瞬間に見えた満面の笑みが、あまりにも優しげだったから。 僕は手をひかれるままに、ゆっくりと路地から足を踏みだしたのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |