シリーズ とあるカップルの出会い@ そもそも何故、普通、というより寧ろ地味な分類に属する一般市民の僕が、一生かかわりの無いような人たちと知り合いになったのかといえば、たった一人の肉親である母親の暴挙が始まりだった。 「わあ・・・嘘、でしょ?」 僕は、寮から持ち帰ってきたボストンバックをドサリと地面に落し、チラシや新聞やガスの申込書やらが目一杯詰め込まれている、ついこの間まで自分ちであったアパートの一室に立ちすくんでいた。 後ろにいた大家さんが、困ったように溜息をつく。 「まさか、雨君が知らないとは思わなかったわあ・・・、お母さんが出て行ったのは、もう一か月も前の話なのよ?」 「い、一か月・・・そうなんです、か・・・」 衝撃に、言葉も出ない。 僕は途方に暮れたまま、ぼんやりと携帯画面に表示されている、全く繋がらなくなってしまった母親の携帯番号を見つめた。 僕、五月雨は、今年4月に半寮制男子校の一之瀬学園に入学したばかりの1年生だ。 母子家庭で貧乏な僕が何故超お金持ち学校の一之瀬学園にいるのかといえば、水商売をやっている母親のコネと、僕の必死の努力で、なんとか特待生として滑り込めたからに外ならない。 今日から学園は夏休みに入り、僕は帰省として4か月ぶりに自宅へ戻ってきた。 その途端の事件だった。 自宅だったアパートは空き室になっていて、お母さんとは連絡が取れないって・・・ど、どういうこと? 大家さんによると、一か月程前に母さんは部屋を引き払っており、そのそばには若い男の人がいたのだという。 たぶん、彼氏ができたんだと思う。 愛に生きる女だからなぁ・・・母さん。 こういうことは初めてじゃないので、そうパニックにはならないけれども。 それに家を引き払ったということは、お金がある人と付き合ってるんだろうから安心ではある。 とりあえず母さんが無事なら、それでいいと思うし。 僕も寮生だから、行く場所がないってわけじゃないしね。 と、普段だったら、そう悠長に構えてられたんだけど・・・。 「なんでよりにもよって、寮が改修工事をしてるこの時期に・・・」 そう、よりにもよってこの今年の夏休みは、寮の改修工事があり、寮に戻ることができないのだ。 がっくりと肩を落とす僕に、大家さんの困った声がかかる。 「もう、次の入居者決まっちゃってるのよねぇ・・・」 「あ、あぁ・・・いや、お気遣いありがとうございます。僕は、大丈夫、です。」 「あらそう?まぁ、一か月ちょっとの話だし、お友達の家とか・・・」 「そう、します。」 自慢じゃないが、友達なんて一人もいない。 僕はひきつった笑みを浮かべて、大家さんに頭を下げてその場を辞した。 ほんと・・・どーうしよー・・・。 [次へ#] [戻る] |