シリーズ C*end 「・・・っ、あ、す、すまん!つ、つい、」 「あ、や、いえ、そんな・・・」 咄嗟に手を離すが、顔が熱い。 なんてことだ。こんな・・・。 (私は何を!こ、こんな破廉恥な・・・っ、) 男相手でも、何故だか恥ずかしくなってしまう。 こんなこと、初めてだ。 熱い頬に焦って顔をそらした私に、けれど小さな笑い声が聞こえて。 「ふふ、」 小さく、つつましやかに笑うその姿。 決して綺麗な容姿の人間ではないが、その姿が酷く。 「優しい方に助けてもらえて・・・本当によかった、です。」 身長の所為で少し上目づかいで、こちらを見て柔らかく笑った目の前の男に。 「・・・理想の・・・・大和、撫子」 私の心は、どうしようもなく、囚われてしまった。 「え?やまと?っ、あ!しまった時間!助けてくださって、本当にありがとうございました!し、失礼しますっ」 「あ、な、名前っ、」 ぼおっとその笑顔を見つめていれば、ふと時計を見て急に焦ったような表情になった目の前のその人は、大きく頭を下げて。 そして、名前を聞く間もなく、あっという間に走り去って行ってしまった。 残されたのはその去っていく姿を追いかけようとして伸ばされた、宙に浮いたままの己の手のみ。 普段はあり得ないことだが、ぼんやりとその人がいた場所を見詰めつつ、先ほどまであった顔を思い浮かべる。 少し大きめの黒い瞳に、黒い髪。 多少小柄だっただろうか。きれいにお辞儀ができる人だった。 佇まいは、清楚で楚々として。 笑う姿は、小さな名もない野草のように、華やかではないがけれどやさしい柔らかさに満ち溢れていて。 「・・・・これが、恋」 生まれて初めて体験する、胸の高鳴りに、思わず胸のあたりを握り締める。 どきどきと跳ねる鼓動と、苦しさ。くらくらするような、幸福感に、目眩がする。 「また、会えるだろうか・・・」 かの人が去って行った路地へと視線を向けて、ほう、と小さく熱いため息を吐いた。 [*前へ] [戻る] |