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シリーズ
−33

side:キツネ


ソファにだらしなく座りながら、むっつりとした顔でチームの人間から手当てを受けているボロボロの零時さんを、向かいのソファから見つめて、額に手をあてた。

わかってた。
雨ちゃんから相談を受けたときから、なんとなくこういう展開になること分かってたよ僕。
それにしたって、しっかし・・・

「なっさけない姿ですねー」

半笑いの僕に、零時さんが再び眉尻を吊り上げる。
次の瞬間には僕の胸元に掴みかかろうとして、僕の両隣りに座っていた夏兄と春兄にその腕を思いきり振りはらわれ。
酷く、不安定になっているのがわかった。
僕はその様子を見て、ため息をつく。

「相変わらず、手が早いですよねぇ。口で説明するのを億劫がって。」

一度息をついて、じつ、と零時さんの目を見つめる。
絡まった視線に追い詰められたような焦りを見て、なんだかちょっと嬉しくなったのは秘密だ。
その危機迫る瞳を見つめながら、きっと残酷だろう言葉をためらいなく言いきってしまう。

「だから・・・雨ちゃんにも逃げられる。」

ひゅ、と零時さんの息をのむ音が聞こえた。
一気に変わる、顔色。
悲しいのか、怒っているのか、さびしいのか。
いろんな感情が混ぜこぜになったその表情を、是非、雨ちゃんに見せてやりたい。
零時さんの体が糸が切れたようにぐったりとソファに沈み込み、疲れたようにうつむいたその顔は僕から見えなくなってしまい。


「・・・雨ちゃん、なんか置手紙でもしてったんですか?」

静かに問いかけると、そっと片手が差し出された。
握りしめられたその手の中には、一枚の紙切れ。
ずっと力いっぱい握っていたのだろうそれは、手に取って見るとぐちゃぐちゃに皺だらけになっていて。
開いて読んでみると、家を出る旨と、感謝の言葉。そして迷惑をかけた謝罪の言葉が丁寧に簡潔につづられていた。
その文字はよくよく見ると、ところどころ変なところで筆圧が変わっていて、何度もためらいながら書いている様子が、僕には見えて。

まぁ、そんなこと零時さんには分からんのだろうけどさ。


「・・・迷惑ってなんだ。」

黙ってその手紙を読んでいた僕は、小さく聞こえてきた零時さんの声に顔をあげた。
零時さんはソファでうなだれたまま、額に手を当て、小さく頭を振る。

「意味が、わかんねぇんだよ。迷惑なんざ、かけられてねぇ。そんなん知らねぇ。アイツ、何が気に食わなかったんだよ。俺の何が、俺との生活の何が、嫌だったんだよ・・・っ」

段々と荒くなる語気。
こちらから表情は見えないが、たぶんつらそうに顔をしかめているんだろう。

そんなんになるんだったら。


「ちゃんとそう、言ってあげればよかったのに。」


そしたら、出ていかなかったかもしれないね。

零時さんはふっ、と顔をあげて、呆然として僕の言葉を聞いていた。
そして、一瞬泣き出しそうな顔をして、そしてその表情を振り払うかのように勢いよく立ちあがって。
そしてそのまま戦々恐々とこちらの様子をうかがっていた、周囲をかき分け、ふらりと店を出て行ってしまった。



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