シリーズ
−C
side:零時
「おい、新!!!」
「まだ見つかってないですよ。」
思いきり怒鳴り付けたのに、おびえる様子も全く無しに、飄々と言葉を返してくるコイツが今、心底憎い。
すべてわかったような態度でこっちも見ずにパソコンをいじっているヤツに、俺は手元のグラスを投げつけた。
「っと、危ないなぁ。」
「避けんじゃねぇよクソが!」
「あーあーいいんですかー。俺が怪我したら、雨は悲しみますよー」
その言葉に、再び投げつけようとしていた二つ目のグラスを、乱暴に自分が座る席のテーブルに叩きつけた。
おいおい、備品壊すんじゃねぇよ、とチームで根城にしているココのマスターの、笑い混じりの声が聞こえたが、無視して俺は手元に残っていたジンを一気に飲み干す。
酷くむしゃくしゃする。
俺は、思わず片手で髪をかきまわした。
何もかもが上手くいかない。
なんでこんなことになったんだ。
俺が、悪かったのか?
「まぁ7:3くらいでアンタが悪いと思いますけど。」
「うっせえ!!!」
俺が何にこんなイライラしているのかといえば、目の前にいるコイツ、俺のチームの参謀である新の同室である、雨のせいだ。
俺の、恋人。
「・・・なにが恋人だ」
俺の恋人である雨は、誰から見てもその辺にいる平凡な顔をしている。
今まで俺と付き合いのある人間とは、180度違う存在で。
別にセックスのテクがあるでもないし、金持ちでもない。
けれど、俺は本当に愛してるんだ。
あの控え目な笑顔も、俺が弱ってるときに何も言わずにそばにいてくれるのも、温かい体温も、泣いた顔だって、照れた顔だって全部。
全部、泣きたくなるほど好きなのに。
「いいじゃん。ずっと零時が言ってた理想の恋人だろ」
「・・・昔の話だ。」
すべてわかってるくせに、そんな風に言ってくる新をぶっ殺してやりてぇ。
確かに理想の恋人は、
俺を束縛しないで
ヤりたいときにヤらせてくれて
我儘言わねぇヤツ
って、言ってたよ、俺は。
今思うと、サイテーだ。
綺麗な女も男も食っちゃ捨て状態だった俺は、なんもわかっちゃいなかった。
「ふーん、今でも浮気するくせにね」
「・・・・・・。」
新の言葉は辛辣だ。
それは自分の親友である雨を、俺が不幸にしていると思っているからで。
そしてそれは、たぶん正しい。
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