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シリーズ
−30
side:零時


今日はちょっとした用事で家を空けていた。
グループ同士のいざこざで正直面倒なことになり、これからのことを考え、玄関の前で思わずため息が漏れた。
『青』にばかり面倒事が降りかかってきてるように思うのは、気のせいだろうか。

上手い飯でも食わないとやってられねぇ。

そう思いながら鍵を玄関のドアに指すと、小さくカチリと鍵の開く音が聞こえた。
そのまま玄関を入って靴を脱いでいる時に、ふと違和感を感じて。

いつも自分が帰宅するころには部屋の中に響いている、生活音が聞こえない。
コトコトと鍋が煮える音、食器のこすれる音、トントンとまな板と包丁が奏でる音。
そして何より、

「・・・今日は、こないンかよ・・・」

毎日玄関まで出迎えに来てくれるポチの、パタパタと玄関まで小走りで走ってくるスリッパの音が聞こえない。
それにいつもは煌々と暖かく照っている明かりも、全く点いていなくて。
いつもとは違う様子に、何故だか背中に冷たいものが這った。

今日出かけるときには、いつもと何も変わりなかったはずだ。
ポチは最近困ったように微笑むことが多かったが、寧ろ今朝は久しぶりにそんな困った表情はなく、以前のように小さく微笑んで俺を見送って。
なにも、変わったこと、なんて。

少し焦り気味に靴を脱ぐと、目の前にやっとのことで待ち焦がれたいつもの音の一つが聞こえて、ほっ、といつの間にか詰めていた息を吐いた。
爪がカチャカチャとフローリングに擦れる音。
そして元気よく響く鳴き声。
思わず緊張させていた表情を緩めて、目の前に走ってきた愛犬を抱きあげた。

「よお、今日の出迎えはお前だけか?」
「ワン!ワンワン!」

抱きあげて耳の後ろを撫でてやったが、そこにも違和感が続いた。
いつもだったら抱きあげれば喜んで尻尾を振り顔を舐めてくるポチが、嫌がるように身をよじり大きな声で鳴く。
余りの暴れ様に思わず腕から下ろすと、ポチは一目散に部屋の中に駆け込んでいって。
その後ろ姿を呆然と見つめながら、眉をひそめた。

「な、んなんだよ・・・」

胸の奥に生まれた重いモノに喉がふさがれ、呟く声も掠れた音になってしまった。
なんだかひどく息苦しい。
ぐっと、胸が引き絞られるようだ。
重い足を気のせいだと言い聞かせながら、誰も見ていないのに何でもない風を装って、リビングに続くガラス戸を開いた。



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