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シリーズ
−28

side:キツネ


待ち合わせた店でその顔を見た瞬間、碌なことにならないだろうなぁ、と。

久しぶりに聞いた、おどおどとした、でも柔らかなその声。
こっそりと交換していた電話番号からかかってきた時は、首をかしげたのだけれども。
ちょっと相談がある、と言われれば、彼を気に入っていた僕が近くの喫茶店で久しぶりに会うことを提案するにはそんなに時間はかからなかった。
けれど、少し遅れてその店に入ってその顔を見たその瞬間。

(なぁんだか、嫌な雰囲気。)

少し落ち込んだ彼から漂う雰囲気に、なんだか嫌な予感をびりびり感じて。
彼を家に居候させている、やはり面倒臭い人を脳裏に浮かべて、軽くため息をついた。

面倒な人が二人いれば、そりゃ面倒なことが起きるよね。

しかしながらそれを止めるのもそれこそめんどうだとも思ったし、むしろちょっと楽しいとか思ってしまった僕も、相当アレだ。
自覚はあるけど、やめられない。
だって僕まだまだ若いもん。

なーんて、そんな風に心で言い訳をしつつ、ストローでコップの中のカフェオレを混ぜると、氷がカランと涼しげな音を立てた。

「・・・キツネには、ほんと迷惑をかけるんだけど、その、」
「うぅん、僕は別に全然いいんだけどさぁ。」

テーブルを挟んだ向かいには、なんの変哲のない平凡な小柄な少年が一人。
平凡だけど、困ったように瞬くその瞳はどこまでもやさしくて。
僕はおどおどと目を泳がせる年上のその人の頭を、思わずなでたくなる衝動に襲われた。

いちいち動きが小動物じみて、かわいいんだよなぁ、雨。

僕はテーブルの上で頬杖をついて、上目づかいにその顔を見上げる。

「でもさ。雨は、それでいいの?」

雨の瞳が、まっすぐに僕を見つめる。

「零さんに、何も言わなくて、いいの?」

じつと、雨の真黒な瞳を見つめながら言うと、その瞳がゆらゆらと揺らいだ。
無言でそのまま見つめていれば、耐えきれないように目をそらしたのは相手が先で。
僕の視線から逃げる様に顔を俯けて、唇をかみしめた悲しげな表情が見えた。
僕はそのまま、雨から目をそらさずに言葉を続けて。

「言葉にしなきゃ、伝わらないことってあるよ。たくさん、さ。」



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あきゅろす。
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