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シリーズ
−21

「ポチ、お前ちょっとここで待ってろ」
「え?」

ブラブラと露店を覗きつつ歩いていた僕たちだったのだが、突然零時さんは、持っていた飲みかけのブラックの缶コーヒーを僕に手渡してきた。
突然のことに慌てつつも、なんとか取りこぼさずに缶を受け取る。
目を丸くして見上げる僕の頭に一回、ぽん、と手を乗せて、零時さんは人ごみの中に紛れて行ってしまった。

「・・・どうしたんだろ?」

近くの壁に寄りかかりながら、首をかしげる。
確かになんだか途中から、零時さんは時折考えるようなしぐさを見せてはいたけれど。
だけどなにかを買い忘れたというなら、別に僕を連れていってもいいようにも思う。
僕を残したってことは、知り合いでも見かけたんだろうか。

ぽつぽつとそんなことを考えながら人ごみを見つめていると、ふと、小さな音が僕の耳に届いた。
不思議に思い、確かめるために聞こえた方向である背後の路地裏を覗き込む。
するともう一度。


「・・・犬の鳴き声?」


元気、と云うよりは助けを求めているような、高い、小さな犬の鳴き声が。
路地裏の奥から聞こえてきて、僕はもう一度よく耳を澄ませて路地裏に体を入り込ませる。


クゥン、


「やっぱり。」

何か助けを求めているのかもしれない。
そんな切羽詰まった泣き声に、僕は様子を見に路地裏の奥へと進もうとした。
と、その時になって、自分の手元の缶コーヒーに気が付き、自分が零時さんを待っている状態であったことを思い出す。
一瞬、その場に踏みとどまるも。

クゥン、

再度聞こえてきた声に、やっぱり心が痛んで。


(すぐ帰ってくれば、大丈夫・・・だよね。うん。)


様子を見たらすぐ帰ってくることを決意して、急ぎ足で路地裏の奥へと足を踏み入れた。




鳴き声が聞こえてくるほうに足を進めていくと、だんだんと鳴き声が近くなってくる。
けれど何度目かの曲がり角を曲った時、犬の鳴き声に交じって、人の声も聞こえてきた。
ざらざらした笑い声と、砂利を踏みしめる幾人かの靴音。
なんとなくいままでのいじめられっこ経験から、その人間たちの雰囲気が良くないことを悟って、僕は声の大きさからすぐ近くにいるだろうことを予想し、こっそり次の曲がり角から首だけを覗きこませた。
するとそこには。

「オイオイ!コイツ、犬のくせにブランドもんの首輪してんぞ!」
「げぇ、この首輪”Emu”じゃねぇか」
「お犬様ってか!おめぇより、金持ちかもな!」

ギャハハハハ!

大きな笑い声が路地裏に響き渡る。
ガラの悪い3人組が、チワワらしき犬を囲んでいた。
三人は、僕に背を向けるようにしてチワワを取り囲んでいるのだが、チワワの後ろは行き止まりで、チワワはどうやら逃げることもできずに恐怖から立ちすくんでしまっているようで。
チワワの首には、遠目から見てもわかる青い首輪。
飼い主とはぐれてしまったのかもしれない。

一回首を引っ込めて、しばし考える。
このままにしておいたら、あのチワワはろくな目にあわないような気がする。
だからといって、どう考えたって僕はあの三人組には勝てないだろう。


・・・うう、どうしよう。


うろうろとその場で足音を立てないように、ぐるぐると歩き回りながら考える。
一瞬でもあの三人組の注意を引きつければ、あのチワワは逃げ出せるだろうか。
それで、僕もすぐに逃げれば・・・だ、大丈夫、だろう、か。

うん。よし、それでいこう!

僕は背筋を伸ばし気合いを入れて、手の中にあるコーヒー缶を握りしめた。


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あきゅろす。
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