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シリーズ
−S

誰かと手を握ったのはいつ振りだろう。
誰かとつながるのは、こんなにも温かいものだっただろうか。


露店が立ち並ぶ通りを歩きながらも、何度もつながっている腕を確認しては、頬が緩む。
僕の生っ白い小さな貧弱な手に、すらっとした綺麗な長い指を持つ大きな零時さんの手は、どう見ても釣り合っていないけれど、それでもうれしくてたまらない。
段々と、手を伝わってお互いの体温が混じっていくのを感じて、胸の奥がくすぐったい気分になった。

ふと、そんなとき、目の端を気になるものが映った。


小さなターコイズブルーの石がペンダントヘッドの、シンプルなチョーカー。


露天に並んでいたそれに心惹かれるものがあって、思わず足を止める。
繋いだ手がぴん、と張ったが、すぐにその緊張も解けた。
僕はじつ、とそのチョーカーを見ていたが、値段を見て再び悩んだ。

買えなくはない・・・けど、ちょっと高い。

まだ母さんが見つからない今、なるべく金銭的な無駄は省いていきたいのだけれども。
正直、アクセサリー系統のものは、あまり興味がなく買ったこともない。
自分が付けても似合わないと思っているのもあって、お店自体、コーナー自体に立ち寄ることもそうそうないのだ。
でも、このチョーカーにはどこか惹かれるものがあって。

小さな石だけれども、その青が、綺麗だと思った。

自分がつけたところを想像すると、とてもじゃないが似合う気がしない。
けれど紐を調節して、キーホルダー代わりに持ち歩く事はできるんじゃないだろうか。
買いたいけど、どうしようか・・・
と、露店の前で立ち止まり唸っていると、頭上が陰った。

「なんだ?なんか、欲しいものがあるのか?」

降ってきた声に、はっと繋いでいた手を思い出す。
僕が立ち止まってたら、手を繋いでいる零時さんも足を止めなければならない。
僕は零時さんを見上げて、首を振った。

「いえ、なんでもないです、」
「・・・でも、お前、」
「ほ、ほんと!なんでもないですから!行きましょう?」

訝しげに眉をしかめる零時さんに、慌てて急かせる様に、つないだ手を引っ張った。
零時さんはそれでも納得いかないような表情を浮かべていたが、僕が何も言わないのを見ると、一度ため息をついて歩き始めた。
僕はその様子にほっと息を吐くと、その後ろをついていく。
少し後ろ髪を引かれる思いはあるが、零時さんの邪魔をしちゃいけない。

まぁ、縁がなかったんだろうな。
無駄金を使わなくて済んだと思えば、諦めもつくよね。

脳裏にターコイズブルーをひらめかせ、一瞬だけ露店を振り返る。
けれど距離が少し開いたせいで肘が上がったのを感じて、少しだけ残る想いを振り切るように、小走りで零時さんとの距離を縮めた。



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あきゅろす。
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