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シリーズ
−Q

「・・・ぜ、ぜろときさぁん・・・・・」
「・・・まぁ、それでいいだろ。」

フィッティングルームのカーテンによろよろと掴まり立ちをしつつ、泣きたい気持ちでこちらを見ていた零時さんに視線で助けを求めたが、その零時さんと言えば、何食わぬ顔でうなずくだけで。

「これ、全部着ていくから、そのまま会計」
「かしこまりました。」

零時さんの長い指に挟まれているのは、見たこともない色のカードで。
先ほどまであれやこれやと僕に服を進めていた店員さんは、そのカードを丁寧にトレーの上に乗せてどこかに行ってしまった。

自分が来ている服の値段を考えると、体が震える。
は、早く脱ぎたい!
汚したらどうするんだこんなの!
弁償だって言われても、僕、絶対払えない・・・!

ん?っていうか今、零時さん・・・、

「零時さん、今・・・」
「あ?」
「お、おか、お会計って、」
「あぁ、それ全部買う。着ろ。」
「ええええええ!?」

無理!だって、これすごく高かった!
この服を着なきゃだめだって零時さんが言うなら、仕方ないかもしれないけど・・・でも、でも、
僕は今の通帳の残高を思い出しつつ、肩を落とした。

「な、何回払いに・・・」
「はぁ?・・・俺が払うぜ?」
「えええ!だってこれ、すごく高いですよ!?」
「そうか?気にすんな」
「気にしますよおおおお」

所詮、お金持ちの零時さんと僕とでは金銭感覚が違う。
僕にとってはこの上着一枚で、服を2.30枚は買えるのだ。
そもそもこんなお洒落な服がたくさん置いてある高そうなお店には、いつも百貨店のワゴンセールで服を買う僕にはほとほと縁がないのだから。
でも、だからといって、こんな高いものをおごってもらうわけにはいかない。
ただでさえ、家賃も生活費も払わず、家に置いてもらっている身なのだ。
益々、いたたまれない気持ちになるに決まっている。

「零時さん、ほんと、こんな高いの奢ってもらうわけには・・・」
「うるせぇ。俺がやるっつってんだから、黙ってもらえばいいじゃねぇか」
「いや、でも・・・」
「いいから、黙ってついてこい。」
「う・・・ハイ。」

買ってもらったばっかりの服を着て、零時さんの後をついて歩く。

今日は零時さんが宣言していた通り、二人で街に出てきたのだが。

服見るって言ってたけど、まさか僕の服だとは思わなかった・・・。

てっきり零時さんが自分の服を買いにきたのだと思っていた僕は、最初、零時さんが行きつけているのだろうみたこともないような綺麗な店内を、興味深々に見回していた。
今日歩いて来た通りすら、目新しくて楽しい。
外からウィンドウを眺めるだけで楽しくて、うきうきした気分だったのだが。

うっかりもれた溜息を聞き咎めたのか、零時さんが足を止め、こちらを振り返って顔をしかめる。

「・・・なんだ、その顔は」
「っ、えぇ!?いや、べつにっ」

むっつりとこちらを睨みつけてくる零時さんに、慌てて意味もなく頭を振る。
すると一瞬、零時さんは困ったような顔をした。
けれどその表情も、僕が一回瞬きをした瞬間に消えてしまったので、僕の見間違いかもしれない。
零時さんが再び前を向いて歩き始めたので、慌てて小走りにその背を追いかける。

そしてその脚は、今度は靴屋へ入っていった。

かっこいい靴が綺麗に並べられているのに、零時さんの後ろをフラフラ歩きながらも見惚れていると、飛び込んできた零時さんの声。


「コイツの服に合う靴を適当に見繕ってくれ」
「かしこまりました。」


もう、勘弁して・・・!!!




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あきゅろす。
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