シリーズ
−L
side:零時
「お前って意外と食いしん坊だもんな・・・。うん。」
「・・・その目はやめろ。」
最近ホームに来なかった経緯をそんな感じで掻い摘んで話すと、珪に妙に生温かい目で見つめられた。
超ウゼェ。
マジ、殴りてぇ。
「まぁ、いいんじゃないんスか。いい嫁もらえて。」
「なんだその嫁って!!」
「だって家事なんでもできて、料理うまくて、気がきくんでしょ?嫁じゃないっすか。」
パソコンの液晶に視線を戻している新に横から口を挟まれ、咄嗟に怒鳴り返すも、はた、と考えこんだ。
確かにポチは俺の三歩後ろを歩くわ、俺の好みをいつの間にか熟知してそれをさりげなく出してくるわ、理不尽なことを言われても文句は言わねぇわ、でも金の使い方を見てるとちゃんと締めるところは締めてるよな・・・。
「って、違ぇー!!」
「いやはやめでたいね。式には呼んでくれよ?」
「アイツにも早速報告だなー。青がおめでただって。」
「双子も黙れ!交渉人には言うな!」
双子までもがこちらを見ながらにやにやと同じ顔で笑っているのをみて、慌てて怒鳴った。
こんな話交渉人に聞かれたら、とてつもないく面倒なことになる気がする。
スゲー、する。
あー、ヤツの高笑いが聞こえる・・・。
俺はこの話がもし広がったら、という最悪な未来を想像して、大きくため息をついて体をソファに沈めた。
マジ面倒臭ぇ。
俺の周りの人間は面倒臭ぇ人間、多すぎねぇか?
目を閉じ、顔を天井に向けてあおむけ状態にしている俺に、ナツの不思議そうな声がかかった。
「でも、夏休み限定なんだろ?同居人。」
その言葉を聞いて、はっ、とした。
そうか。そうだった。
毎日美味い飯が続くと思っていたが、これは一月限定。
だからこそ引き受けた話であったのに。
つか、なんだ?
なんで俺は、こんなに驚いてるんだ?
妙な衝撃を受けたことに、俺は内心首をかしげた。
別に今まで一人で住んでいたし、同居人なんて面倒だと今でも思うのに。
一瞬だけ現れたモヤッ、とした何かを打ち消すように、俺はフン、と鼻を鳴らした。
「まぁな。じゃなきゃ引き受けてねぇよ。」
「あーあー、なるほどねぇ。ならまだ納得できるかねぇ〜。」
「まぁアンタと同居なんて、向こうだって一か月でこりごりって思うでしょうしね。」
「新テメェ・・・」
肩をすくめながら言う新を、睨みつける。
すると新は心外だ、とでも言うようにこちらを見る目を細めて。
「だってアンタ、スゲー我儘じゃないっすか。特にメシに関しては」
「あ、それはあるよな。零ってば超グルメだしぃ〜」
笑いながら付け足された珪の言葉に、俺の言葉もぐっと詰まった。
確かに食い物に関してはうるさい自覚は、ある。
人が作ってきたモノに関して、毎回いろいろ文句をつけていることも・・・まぁ、無くもない。
でも。
「アイツの作ったもんには、文句ねぇよ」
ポチの作った料理は、本当なんでも美味くて。
俺が完食すると、毎回ポチは満面の笑顔で喜ぶ。
その笑顔はやっぱり、迷子のバカ犬と似ていて。
「え?何、愛のスパイス?」
「んなもんねぇよ!」
珪の頭を殴りつつ、あー、ポチのメシが食いてぇなぁ、と言葉には出さず、小さく心でつぶやいた。
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