4-28
「おい、カズ」
「っ、・・・ハイ。」
不意に、黒さんが一実の方を見ないままに声をかけた。
一実は、ぼんやりと僕たちのやり取りを見ていたその体を一瞬震えさせ、けれど至極冷静に返事を返して。
「今日、俺は機嫌がいい。」
「・・・・・・、」
「今日は、もう帰れ。後始末は、他の奴らにやらせる。」
「・・・わかりました。」
ス、と綺麗にお辞儀をして、一実が一歩後ろに下がる。
そしてそのまま部屋を出ようとしたので、ぼんやりとその背を見送ろうとした僕だった、が。
ふとあることに気がついて、慌ててその背に声をかけた。
「か、一実!」
思ったより大きく響いた声に、一実はゆっくりと振り返る。
なんだかその顔が酷く沈んでいて気になったが、取りあえずそれは後だ。
今、僕の死活問題と言えば。
「一実、今日は寮帰るか・・・?」
「いや・・・明日は休日だから、今日は家に帰るつもり、だけど」
「じゃあさ、じゃあさ・・・」
僕は、内心恐る恐る、けれど必死に笑顔を浮かべて首をかしげて見せた。
「今日、一実ん家に泊まらせて☆」
つい今さっき気づいたんですが、かんっぺきに寮の門限過ぎてます。
他にも泊まらせてくれるところはあるけども(たとえば、早苗さん家とか、中学の友達とか)、一実の家じゃななきゃだめなんだ!
(だって他の家じゃ、色々兄ちゃん達にばれる・・・!)
門限までに帰れなかったのは、一実の家で時を忘れて遊び過ぎたってことにしたい!
一実がここにいたのも、何かの思し召しに違いない。
言い訳に使えっていう、思し召しに・・・!
今日の出来事がばれたら、僕、めっちゃ怒られるはず。
なぜなら、兄ちゃんズに
『黒に会うときは、絶っっ対に、俺ら同行の上で』
と厳命されているからなわけでーでーでー(エコー)。
耳にたこができるくらい繰り返された厳命を、思いっきりブッちしちゃったぜい!いえい!
笑 え な い !
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