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き ょ う ふ

(どうしようどうしようどうしよう)
サーっと青ざめた小春はどうしようもない絶望感に明け暮れていた。

「え、もしかしてあの子?例の編入生」
「あー、そうそう。ほら、前の学校で何かやらかしたんじゃない?」
「おとなしそうな顔してんのにねー」

廊下を通る度にコソコソと囁くような声が小春を刺す。

(わ、私何もしてないです。引っ越したアパートがこの学校の近くなだけでっ)

小春が編入したクラス、即ち聖石矢魔学園特設クラスは俗に言う不良の集団だった。噂はデマなんかじゃなかったのだ。

─今日からあのクラスで勉強なんてとてもじゃないけど

(む、無理です!)

そそくさに廊下を俯き加減に歩く小春は、涙目で校舎を後にした。


*****

「今思ったんだけどさー、小春ちゃんて何で同じクラスなんだろ?」

古市の問いに、赤ん坊をあやしていた男鹿は背中越しで生返事をする。

「んー、あ?」
「ほら、俺たちは石矢魔がアレだから間借りしてるだけだけど、小春ちゃん……あんな小動物みたいな娘がヤバいことした風に見えないし」
「ヤバいな、本格的にベル坊のミルクどうすっかな…」
「…聞いてねーだろ」
「ヴー…ダァー…」
「ま、待て待てベル坊泣くなよ?泣いたらぶっころすからな!?」
「ダァー……」

空になったチョコボールの箱をぐずりながら見つめるベル坊に、男鹿はひとつの可能性を見いだす。

「…アイツに会いたいのか」
「ダー…」
「…キャラメル味欲しいのか」
「ダー…」
「うーむ…アイツ昼休み早々どっか行きやがったからな…」

悶々と腕組みをして考える男鹿に、ここで古市が相づちを打った。

「俺、違うクラスの女子で小春ちゃんのこと知ってる娘、一人知ってる」
「それがどーした」
「馬鹿か。それなら小春ちゃんのメアドゲットするのくらいちょちょいのちょい、ってことだ」
「…あー、なるほど。情報網広いなお前」
「ダ」
「先に言っとくが褒めてねェから………だとよ」
「……………」

よっこらせ、とベル坊を抱き上げて男鹿は空のチョコボールの箱を拾う。

「ベル坊が懐くくらいだから、悪いヤツなんだろ」
「……」

一理あるのか無いのか、古市は今までの経験から首を縦に振ることも横に振ることもできなかった。


*****

教卓と黒板に挟まれ、緊張は絶えない。

「き、今日からお世話になります1年の内海小春です」

多少吃りながらペコリと自己紹介をする小春に周囲の反応は良くもなく、されど悪くもなかった。

「くそったれ共。こんな可愛い生徒の挨拶だぞ。もっと愛想良くできねェのか」

先生の威圧におののきながらも、ぐるりと教室内を見渡す。
するとばちり、と黒髪の美人さんと目が合った。

「あ、2年の邦枝です。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」

急に声を掛けられたからか心拍数が上がる小春。

(優しそうでキレイな人…)

「んー、生憎邦枝の隣にしてあげたいんだが、1年だから…男鹿の後ろの席だ」
「ええと…」

男鹿はあそこだ、と先生が指差した先には今朝と昨日のあの、

「ぷ、ぷぷぷ」

(プロポーズの人!!)

「ぷ?」
「へぁ!?い、いえ何でもないです」

緊張の面持ちで席まで歩き、すとんと椅子に腰かける。

(な、何故か周り一帯怖そうな人たちばかり…)
(というか予想はしてましたが、赤ちゃん押しつけてきたこの人…同じクラスだった…)

目の前の男を見上げれば、

「アダー!」

昨日と今朝の輝く瞳が小春に向けられた。
痛いほど輝かしい視線が降り注ぐ。

「やっぱテメーこのクラスだったんだな」
「え?」
「よかったぜ。席近いし、これでいつでもベル坊の子守り頼める」
「アダー!」
「ベル坊も嬉しそうだ」

小春たちのその会話にクラス全員の視線が一斉に突き刺ささった。これほどまでの鋭い視線を今まで浴びたことがない。
(特に先ほどの黒髪美人さんの視線が痛い…)

きょとんとする男鹿に後ろめたい気持ちと恥ずかしさで赤面する小春。誤解で冷やかされたり、はやしたてられるのだけは勘弁だ。

「何でいつも男鹿ばっかり…」

一人の男の愚痴が、溜め息混じりに洩れた。


*****

昨日の自己紹介を回想すると、もう溜め息しか出てこない。
質問攻めにはあったりしなかったが、周囲にイマイチ溶け込めないのだ。

チョコボールを口に運びながら心の中でだけぽつり呟く。

(帰りたく、ないです)

せめて昼休みくらいは。

─ヴー、ヴー

「わ!」

その時短い振動音がするかと思いきや、ポケットからおもむろに携帯を取り出した。

「知らないアドレス…?」

そこには要件だけが完結に、無愛想にまとめてあるだけだった。















今すぐ屋上に来い

(ひっ、…私何かやらかしたんでしょうか?)









あきゅろす。
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