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ち ょ こ と

「あー、惜しいことしたぜ男鹿。テメェのせいだ男鹿。またお前はヒルダさんというものがありながら強欲な男だな男鹿」
「男鹿男鹿うるせーよ」
「ダーブー、アーアー」

カランカランとガラガラを揺らす男の背中で、きゃっきゃと機嫌の良い赤ん坊が笑う。

「昨日の可愛子ちゃんいないかな。あのあとビビって帰っちまったもんな」
「あ、ベル坊のミルク忘れた」
「またかよ…つか聞けよ」

はあ、と嘆息する白髪の少年はミルクだ何だと頭を抱える友の隣で昨日の出来事に思い耽る。

「この角曲がってさー、すぐそこに食パンくわえたあの娘がさー」

─ドン!

「す、すいません!よそ見しててその……」

(マ ジ でー!?)

歓喜をあげ、ガッツポーズをした少年の理由は、言わずもがな自分の妄想が即現実となったからである。

いたた、と頭を押さえる少女に最高にイイ顔で優しく手を差し伸べる。

「大丈夫?俺の方こそよそ見しててごめんね」
「いえ……ありがとうございま……ひっ」

小さく悲鳴をあげた少女に少年は苦笑い。

(いい印象じゃないが、覚えてくれてるようだ。めげるな古市)

「昨日の娘だよね!俺覚えてるかな、古市ってゆー…ふごぉっ!」
「ダアー、ダァブー!」

あっけなく赤ん坊の右ストレートを食らった少年は鼻を押さえて唸っている。

「あ、お前昨日の」
(…男鹿が覚えてる)
「ダァー!」

少女を一目見るやキラキラと目を輝かせる赤ん坊。

「?、ベル坊そっち行きてェのか?」
「アーアー」

ひょい、と自分の背中から赤ん坊を降ろし、少女の腕へと預けた。

腕にすりすりと頬擦りをする赤ん坊に、何がどうしたと少女は口をポカンと開ける。


─ポロポロ、コロコロ

「あ?んだコレ…」
「あ!きっとさっきぶつかった衝撃で箱のフタが空いちゃったんだ!」

少女のスカートのポケットから漏れだすのは粒状の茶色いもの。
急いで次々と落ちるそれを拾い集めている。

「…もしやチョコボール?」
「あ、はい…」
「ウーアー!」

少女の腕の中でしきりに戯れている赤ん坊が、チョコボールに反応する。

「ダァー!アーブー!」
「欲しいのか?」
「ダー!」
「チョコボール…好きなの?」

少女が集めたチョコボールを握って離さない赤ん坊。

「ちょ、ちょっと待ってね。それ落ちちゃったから新しいの開けます」

鞄からごそごそと取り出したのは少年もギョッとするほどの無数の箱。しかもそれには全てあのキャラクターが印刷されている。

「定番のチョコと、苺と、キャラメル、どれがいいですか?」
「ウー?」

少女は、笑顔で取り敢えず三種類勧めてみる。

(あのキャラクターって目が血走ってるんだよな。だからギョロちゃんっつーのか…)

妙なところに考えを膨らませる少年の隣で赤ん坊はクエスチョンマークを浮かべて唸っていたが、意を決したように人差し指を突き出す。

「ダ!」
「キャラメル味…ですか?ふふ、なかなか斬新ですね。はいどうぞ」

もぐもぐ

「キャー、アブー!ダー」

味をしめたのか両手を広げ、もっともっとと強請る赤ん坊に、流石に眉をへの字に曲げた少女。

「でもアーモンド入ってるし、たくさん食べるとお腹が…」
「心配ないですよ」
「あ、生き返った古市」
「ダ」

呆れた顔で少年に視線をやった二人(男+赤ん坊)に目もくれず、男は白髪を揺らし、ふふんとすました表情で少女の片手を握る。

「なんたってコイツのガキですから」
「はあ…」
「たしか内海小春さん…でしたよね?名前呼びでもいいですか?あとタメで」
「ど、どうぞお好きに」

おどおどと質問に答える少女小春に古市という男はまたもや口説きにかかっている。

「お前、チョコボール好きなのか」

まだ拾えていなかった一粒を摘んでもう一人の男はしゃがみながら小春を見上げた。

「はい!大好きです」

途端に表情を輝かせる小春。可愛いとか叫んでる古市はこの際無視。

「ギョロちゃん、可愛いでしょう?あと私は一番チョコ味が好きなんです!」
(アレを可愛いと…ねェ。確かにベル坊のぬいぐるみ級だが)

「テメェ、もしや朝メシそれとか言うんじゃ…」
「?」

このチョコボール以外に何を食べるのか、と問うてきそうな小春の顔に少年は発する言葉を無くす。

「おら!取り敢えずメシは食え!んな軟弱なもんはメシの内に入らねェ」

ドサ、とカツパンの入った袋を無造作に小春の目の前に置くと、「学校行くぞベル坊」と赤ん坊を抱き上げた。

「あの…!」
「礼だ、礼。チョコボールの」

チョコボールキャラメル味の箱を両手にしっかりと握った赤ん坊が男の腕の中ではしゃぐ。

「おい、おまっ!一度ならず二度までも邪魔しやがったなぁ!」
「は?」




暫くポカンとしていた小春だったが、はっと我に帰るといそいそと立ち上がった。同じ制服。遠くなる背中とは今日また会うはずだ。

(怖い人じゃ、ないみたい)















食パンならぬ、チョコボールくわえて登校少女

(チョコボール女だな。変なヤツ)
(そっか、あの娘チョコボール好きなんだ。今日購買で買ってこよう!)
(ダー)








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