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僕らの手のひら
いつも思う

たとえばどんぐり雨の降るとき
僕らがたくさんたくさんがんばって
カゴいっぱいにしても
すぐに虫に食われてしまう

一番乗りで探検した木の葉の絨毯も
次の日には
どこかのおばさんの箒に取っ払われてしまう


つやつや光るどんぐりも
踏むとカサカサ音がする小道も
あっという間に変わってしまう


大きなお休みに父さんと出かけた
母さんの小瓶みたいな、ガラス張りの植物園

透明な城のなかはいろんな色で溢れていて
空の見える天井の下
緑が一斉におじぎしているみたいだ


そこでは植物と一緒に鳥や蝶が放されていて
飛び回る極彩色に目がチカチカする


職員さんと話し込む父さんから離れて
僕は蝶を追いかけた

いつまでも届かない追いかけっこ
そのうち蝶も見失った


つまらなくて戻ろうとして
僕は何かに躓いた
土はふかふかしていたから痛くはない
でもやっぱり気分は悪かった


腹が立つ

目の前にあった草を引き抜いた
小さなスズランみたいな花

その影に、花びらが落ちていた

不思議だ

ここら辺にはこんな色の花なんか咲いてない


拾ってみる
指につく蒼のプリズム
蝶の羽だ

半ば崩れて
ポロポロと鱗紛が剥がれる
凄く綺麗で、泣いてるみたいだった


僕は宝物を見つけた気になって
そっとポケットにしまった

誰かに自慢したくて
すぐに父さんの所へ走った


父さんに怒られてから
ポケットの中に手を突っ込む
けれど羽は壊れてしまい
残ったのは蒼のプリズムだけだった


何も言わない僕に父さんは笑った
そんなものさ、だなんて
僕はなんで笑うのか分からなかった


手を繋いで帰る
父さんは物知りで、帰り道の間
蝶や鳥について話してくれた


あの蝶はとても珍しいんだよ
けれどあそこでは卵から育てているから
滅多と見られないわけじゃない

けれどね、
父さんは言う

君が見つけた蝶は君のものなんだよ
手に入れたことじゃない
見つけたのは君だけだからさ


僕はよく分からなかった
父さんの笑顔もわからなかった

なんとなく僕も笑った
理由はないけれど


すごく、大切なことなんだと思えた



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