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 雪葵の柔軟な対応のおかげで、義実は円滑に夕凪を保護し、雪葵の身柄を押さえることができた。
 成瀬の言う通り、危険な人物には思えなかった。

 それから夕凪をホテルへ、雪葵を警察へそれぞれ連れて行った。
 夕凪には余計な情報を一切与えないように万全を尽くし、雪葵には事件と寺杣吹雪に関する情報提供を求めた。
 雪葵は自分が怪盗リオンであることを直接口にはしなかったが、否定もしなかった。
 それは肯定と受け取って相違ないだろう。しかし、罪に問う術がないことを義実は彼に正直に話した。
 そして、寺杣吹雪を追い込むための協力者になってくれるよう願い出た。
 雪葵はそれを引き受け、吹雪に見つからないようにこっそりと証拠だけを取りに行く算段で話が付いた。
 しかしそこへ吹雪が現れたのだ。雪葵を開放するように圧力をかけてきた。
 そこで雪葵は自分が夕凪のストーカーであることを告白した。義実がすぐに雪葵を逮捕し、容疑者として雪葵の身柄を一時的に拘束した。吹雪の元に雪葵を渡さない為だ。
 ところが、例の動画が夕凪の目に触れるというアクシデントが起こってしまった。
 義実の注意が夕凪に向けられ、雪葵の担当検事が現場を離れたほんの僅かな隙を突き、雪葵の釈放が決まってしまった。
 そして、雪葵の身柄が再び吹雪の元へと移された。

 それが、これまでに起きた事実だ。


「つまり、オジサンはあの人が怪盗リオンであることも、夕凪のストーカーであることも知ってたんだ?」

 義実による説明の後、まず口を開いたのは雷波だった。
 その口ぶりに義実は驚く。つまり……

「雷波くんも知っていたということ?」
「俺、コイツの親友」

 親指で夕凪を指し、雷波がニッと白い歯を見せる。
 背後で舌打ちが聞こえたが、敢えて誰のものとは探るまい。

「俺たち、武者小路カンパニーで会ったんだ」

 それは、夕凪と怪盗リオンが引き合わされるきっかけになった場所だ。
 怪盗リオンからの予告状を受けたことを知り、夕凪と雷波が義実に頼み込んで連れて行ってもらった場所。
 そこで夕凪と雷波は怪盗リオンと対峙し、盗まれた宝石を取り返しているのだ。

「それでね、オジサン……俺たち、あの人に借りを返さなきゃいけないんだ」

 雷波が僅かに眉間に力を込めた。

「あの人がいなかったら、俺たち、夕凪を失ってた」

 頬を強張らせ、雷波がゆっくりと言葉を紡ぐ。
 勿体ぶっているわけではないのだろう。その証拠に、言葉を吐き出そうとする度に零れる息が震えている。

「それはどういう意味かい?」
「あの日、建設途中の建物で怪盗リオンを追い詰めた時、夕凪の上に鉄材が倒れてきたんだ。だけど、俺も夕凪も……足が竦んで動けなかった」

 今でも思い出すたびにゾッとする。
 何もできなかった自分と、夕凪を失っていたかもしれないという恐怖。

「だけどあの人は、何の躊躇いもなく崩れてくる鉄材の中に飛び込んでいったんだ」


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