新たな証拠 山吹の言葉が沈黙を落とした。 夕凪が言葉を失ったまま静かに振り返る。 訴える? 誰を? 坊っちゃま……リオンを? 山吹が放った短い言葉を夕凪は頭の中で反芻した。 「鷹森夕凪さん、寺杣雪葵に対してストーカー被害と住居不法侵入、窃盗の被害届を出して下さい」 呆然とする夕凪に歩み寄り、山吹が強い口調で語った。 「貴方は兼ねてからストーカー被害に悩まされていた。寺杣雪葵は貴方の家に無断で侵入して貴方を待ち伏せたり、貴方の私物を持って帰ることもしばしばありましたよね。貴方はそれを心の底から恐怖に感じ、抵抗することも誰かに助けを求めることもできなかった」 ……違う。 「彼は貴方の家庭の事情を知り尽くした上で、ご両親の不在時に貴方の部屋を訪れ、貴方に求愛した」 ……そんな言い方は止めてくれ 「私も共犯です。貴方の個人情報を探り、彼の侵入をサポートしたのは私です。さぞ気味が悪かったでしょうね」 何故…、そんな話をここでするんだ? 義実が聞いているのに……何人もの警察官が聞いているのに…… 「そして先日は彼の所為で悲惨な事件に巻き込まれてしまった……体を強要されたのでは?」 「違う!」 「真実は違ったとしても……事実です。その証拠は貴方が持っている。貴方が言って下されば手杣雪葵も認めます」 やっと絞りだした否定の言葉も山吹の強かな声に押し戻されてしまう。 「貴方が彼を助けてあげて下さい。旦那さまの手から、解放してあげて下さい」 それはリオンを警察へ突き出すことで物理的に寺杣吹雪から引き離せという意味だろうか。 夕凪は混乱する頭で考えた。 一刻も早くリオンを吹雪の元から救い出したい。それは何をおいても最優先だ。 しかし、そのためにリオンを警察に渡すことが本当に最善なのだろうか。 様々な想いが邪魔をする頭で精一杯考えた。 そして言葉を選んだ。 不用意なことを口にすれば肯定したも同じことになってしまう。 結果的にリオンが警察に捕まってしまう。 「それしか方法がないのです」 本当に? リオンを逮捕する以外方法がないのだろうか。 「その、証拠というのは?」 口を噤んだ夕凪に痺れを切らしたのか、義実が口を開いた。 状況を打開したいのは義実も同じだ。 「山吹さんはそれをご存知なんですか? でしたら教えて下さい。今度こそ、寺杣吹雪に消されてしまう前にこちらで押さえたい」 それまで様子を見守っていた義実の表情がいつの間にか刑事の顔付きに戻っている。 「夕凪さんの部屋の本棚に、彼と坊ちゃまを模したぬいぐるみが置いてあります。坊ちゃまが彼に無理矢理送りつけたもので、中には盗聴器が」 夕凪はギョッとした。盗聴器なんて知らない。 それが本当だとするなら相当気持ち悪いが、仕掛けてあったとしても不思議はない。 「それから、夕凪さんのクローゼットの引き出し部分の一番下にある黒いケース。その中にはこれまで坊っちゃまが彼宛てに送ったラブレターが仕舞ってあります」 夕凪は更に目を見開いた。 山吹が何故そんなことまで知っているのだろう。 これはリオンにすら言ったことのない秘密だ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |