2 「馬鹿なことを言っちゃいかんよ、君!」 水を打ったように静まり返ったその場で、ハッとしたように今家が背筋を伸ばした。 だがリオンは黙らない。義実だけをジッと見つめ必死に訴える。 「逮捕してください、刑事さん。僕が逮捕されれば、起訴されるまで義兄さんは僕に会うことができない。そうですよね!」 「確かに、勾留中は接見が禁止されているけど……」 リオンの問いに水城が慌てて反応する。 「馬鹿な! 起訴なんかされるわけがないだろう!」 「起訴されないのであれば、マスコミで洗い浚い告白するだけです! 法が罰してくれないのであれば、世間に罰してもらいます!」 珍しく声を荒げて訴えるその言葉には、リオンの固い決意が表れていた。 その剣幕に今家は返す言葉に詰まってしまった。 「はははは…ま、またまたぁ。寺杣のお坊ちゃんは冗談がお上手で……」 しゃがれた声で乾いた笑いを吐き出し、額から吹き出る汗を忙しなくハンカチで拭う。 「そんなこと軽々しく言うもんじゃないですよ。君一人の問題じゃないんだよ、君は事の大きさがわかっていない」 「充分わかっているからお願いしているんです。何もかも、白日の下に晒して綺麗に清算するべきです」 頑なな態度で突っ撥ねるリオンに今家は血相を変えて長身の吹雪を仰ぎ見た。そしてくどくどと弁解の言葉を並べる。 「せ…先生、ご安心を! 大丈夫です、今の話は聞かなかったことにしますから! ね、わかっているね鷹森くん!」 しかし答えない義実に今家はヒステリックに小声で捲くし立てる。 「聞いているのかね、鷹森くん! いいか、こんなことで事態を荒立てるな……!」 だが義実は答えない。 今家の方を向くこともせず、真っ直ぐに吹雪を見つめたまま硬い表情で異議を唱えた。 「そうはいきません。本人が自供しています。直ちに事情を伺わないと」 「わからない奴だな君は。ここは私の顔を立てて首を縦に振ってくれればいいんだよ」 「できません」 「これは命令だ、鷹森くん」 「できません。彼の言う被害者は私の息子です。親としても被害届は出すつもりです」 譲らない義実に、今家は益々顔を赤くした。 「結構ですよ、今家さん」 そんな二人のいがみ合いを止めたのは、その様子を静かに見守っていた吹雪だった。 事の成り行きには興味がないといった面持ちで、他愛もなさそうに口を開く。 「警察がそんな横暴を働いちゃダメじゃないですか。今家さん」 もっともらしいことを口元だけでうたい、吹雪は冷めた視線で義実を見据えた。 「わかりました刑事さん、今日の所は引き取ります」 そしてあっさりと手を引いたのだ。 今までこの男がこんなにも簡単にリオンを諦めたことなどあっただろうか。 その不可解さは、リオンにも怪訝な顔をさせた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |