抑えてきた気持ち
「……ワイじゃあかん?」
「…え?」
「ワイやったらあかんのん?」
抱きしめる豪樹の腕が一層夕凪を引き寄せた。
「ずっと一緒に居ったやんか。ゆう君の悩み聞いとったやんか……せやのに、そんなワイにも話されへんの?」
話せない……、夕凪はこくんと一度だけ頷いた。
「……大事な…人、なん?」
途切れ途切れの言葉は豪樹がそれを口にするのをどれだけ戸惑ったかが伺える。答えを恐れる問い掛けだった。
無言で俯いたままの夕凪が出す答えに耐え切れず、先に声を上げたのは豪樹だった。
「好きやってん、ゆう君」
腕の中で震えた体にもう一度同じ言葉を繰り返す。
「好きやってん、ずっと…」
「……豪、くん?」
夕凪が驚くのも無理はない。
ずっと隠してきた気持ちだ。よき兄として夕凪を守るために抑えてきた気持ち。
いつだって真っ直ぐに伝えられなかった。豪樹の向ける愛情を身内に向けるそれだと疑いもしなかった夕凪に、その関係を揺るがすような発言は言えなかった。
何度も零れてしまいそうになった気持ちを「冗談や」「からかっただけやん」そんな軽薄な言葉に隠して耐えてきたのに……ここへ来て気持ちの留め具が外れてしまった。あとは溢れ出す気持ちに手の出しようもなく、ただ流れに身を任せるように豪樹は言葉を続けた。
「もうあかん…、止められへんねん。ずっとゆう君のこと想ってきたんや。従兄弟としてちゃう……愛しててん…、恋人になりたいって、そういう気持ちで居ってん」
恋人……、はっきりとそう言われて夕凪の心臓がツキリと痛んだ。
夕凪も豪樹のことは大好きだった。尊敬もしていたし頼りにもしていた。“愛してる”という言葉を使っていいのなら間違いなく愛している。
だが違ったのだ。これまで兄のように温かく見守り支えてきてくれた豪樹の愛情と、夕凪が抱いていた親愛の念とでは全く性質が異なる。豪樹のそれはリオンや竜太が自分に向ける感情と同じモノであり、決して簡単に口にできない“愛してる”。
途端に息苦しさが襲った。胸が焼けそうなほど熱い。
向けられた気持ちの重大さを知り、怖くなってしまった。
リオンや竜太がその気持ちを抱いてどれほど苦しんだかを目の当たりにしてきたからだ。
もしかして、自分はこの大切な従兄弟までも苦しめてきたのではないだろうか。それほどに強い愛情を受ける資格を自分が持っているはずがないのに……
申し訳なく、苦しかった。
だけどもしかしたら、いつもの冗談かもしれない。いつもは夕凪が困った顔をすれば、豪樹がヘラリとした笑顔を浮かべで「冗談や」と笑い飛ばしてくれた。夕凪を不安にさせるようなことはしなかった。だから……
夕凪は押し潰されそうな気持ちに言い訳をつけ、豪樹を見上げた。
いつものように、笑い飛ばして?
「冗談ちゃうんよ、」
縋るようにうるんと瞳を揺らした夕凪以上に豪樹が苦しそうな顔で夕凪を見つめていた。
本気なんだ、
豪樹の誠実な気持ちが痛いほどに胸を打った。
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