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「驚き過ぎだろ」

 雷波は過剰な夕凪の反応に一瞬目を見開いたあと、ゆっくりと細めた。

「っつーか、その様子だと俺が心配するようなことはなさそうだな」

 雷波の口先がチュッと軽いリップ音を立てる。

「お盛んのようで」
「へっ、変な勘ぐりヤメロよ!」
「なんだよ、図星なくせにー」
「ち…違ッ!」
「まあ、とにかく安心したわ。アイツがこないだ妙なこと言うから気になってたんだよ」
「アイツって…?」
「 ソ イ ツ 」

 雷波が夕凪の胸をトントンと指で突いた。思い浮かんだ人物と一緒だ…ということだろうか。
 だとしたらその人物が指すのは、リオン。雷波はいつリオンに会ったのだろう。リオンがここ数日の間、姿を現さなかった理由を雷波は知っているのだろうか?

 夕凪の表情に急に不安の色が差した。
 ピクリと引き攣った夕凪の表情を親友である雷波が見逃すはずがない。不穏を読み取り、雷波はまだ口にするべきじゃなかったかと眉を寄せた。

「あの人……、雷波に何か言ってたの?」

 この一週間、置手紙だけを残して姿を見せなかったリオン。その理由を雷波は知っているのだろうか。
 もしかしたら、雷波は夕凪が聞かされていなかったこの空白の数日間を知っているのかもしれない。

「ねえ雷波、教えて!」

 だが雷波は難しい顔をしたまま黙り込んでしまった。言葉を篩にかけ、夕凪に伝える言葉を慎重に探しているようだった。

「……言えないことなの?」

 思わしくない雷波の態度に夕凪はますます表情を曇らせた。
 何故、リオンは雷波にだけ伝えたのだろう。雷波には言えて夕凪には言えない事情とは何なのだろう……

「……あの人がそう言ったの?」
「……」
「俺には言っちゃダメだって……?」
「違う……」

 怯えた目で見上げる夕凪に雷波がようやく重たい口を開いた。

「お前を……頼むって言われたんだ」
「……なんで?」

 夕凪の顔が泣きそうにくしゃりと歪む。

「俺を頼むって、どういう意味? 何でそんなこと……」

 どうしてリオンは雷波にそんなことを言ったのだろう。ずっと傍にいてくれると約束したのに……、守ってくれると言っていたのに……

 泣きそうに潤んだ目は、雷波を通してその奥にいる人物へと直接投げかけられた問い掛けのように思えた。
 そんな夕凪に、雷波は一層険しく眉根を寄せる。

「そんなの、俺の方が知りてぇよ」

 気を紛らわすように夕凪の頬をつねり、雷波は苦い表情を浮かべて呟いた。

「ずっと気になっちまって、仕方ねえっつーの」

 雷波の懸念通り、夕凪とリオンに何かがあったことは火を見るより明らかだった。
 怪盗リオンはいったい夕凪に何をしたんだ?
 雷波が夕凪に問い質そうとした時、その重苦しい空気を遮断するように教室のスピーカーから朝礼を知らせるチャイムが響いた。
 この学校では校内放送を使って朝礼を行うため、ガタガタと慌ただしく音を立てて生徒たちがそれぞれの席に戻っていった。

 人の波に押し流され、結局お互いに真相を聞けないまま、夕凪と雷波は自分の席に着いた。


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あきゅろす。
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