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やれやれ…と頭を掻く雷波の言葉に、リオンは片頬をピクリと引きつらせた。
夕凪を冒涜されたような気がしたのだ。自分のことならまだしも、夕凪のことになると途端に頭に血が上ってしまう。

「レディのことを悪く言うのは、例えレディの親友でも許さないよ」

ギリッと奥歯を強く噛みしめ、リオンは今にも振り上げてしまいそうな拳を小刻みに震わせていた。
自分が汚れた存在であることは否定しない。だが夕凪のことだけは誰にも汚されたくなかった。

「おいおいまだ何も言ってないだろ。落ち着けって」

そんなリオンの前に両手を翳し、雷波は慌てて悪意のない言葉を続けた。

「あんたは無用心。夕凪は、無防備すぎるって話」

密かに吐き出した溜め息。
危なっかしい夕凪を見る度に何度零したことだろう。

「夕凪ってさ、ガキの頃から空手とか護身とかやっててさ、ぶっちゃけ俺ら仲間の誰よりも強いんだよね。だから、自分の身は自分で守れるんだって思ってた……けど違った」

……違った。全て都合のいい思い違いだったのだ。

「いくらアイツが強くたって、あんな細い体、押さえ込んじまえばビクともしないんだ。簡単に組み伏せられる。さっきだって俺に理性があったから良かったものの……」

夕凪を心配する気持ちが急かし立てて、言葉が止まらない。

「あんな色っぽい顔されたら誰だっ……、あ 」

だから雷波が今更自らの失言を悟っても、既に手遅れだった。

「レディに何をしたって?」

その身を包むマントのように真っ黒な怒気を纏いながら、鬼の形相でリオンが雷波を睨みつけていた。といっても顔の半分を隠すゴーグルの所為で表情を見ることはできないのだが、それでも充分な程にリオンは怒りを露わにしていた。
そして再び振り出しに戻る。

「さっき、レディに何をしたの!?」

もの凄い剣幕で雷波の肩を掴むリオンの握力が尋常じゃない。

「痛てててて、待てって! 違っ…未遂だったんだって! 無罪ーッ!」
「未遂は無罪じゃない!」

長身の雷波をベッドに投げ倒し、その上にリオンが覆い被さった。

「お仕置きが必要だ」

静かに言い渡したリオンの断罪に、雷波の血の気がサァー…っと引いていく。

「えっとあのー…リオンさん? あまり冗談に聞こえないんですけど……」
「冗談なんか言ってないもの」
「な――‥ッ! まっ…まままマジでゴメンナサーイ!」
「やだ。許さない許せない」

お仕置きなんて生温いものじゃない。リオンからは殺意すら感じる。




「……何してんの?」

背後から聞こえた氷のような声が、リオンと雷波の心臓を同時に射抜いた。
2人の表情が同時に固まる。
恐る恐る振り返れば、飲み物を持って戻ってきた夕凪が、不自然に組み合う2人を冷ややかな眼差しで見つめていた。

「俺、今日は豪くん家に泊まるね。ごゆっくり」

くるりと踵を返し、夕凪がドアを閉めて出て行ってしまった。
絶句するリオンと雷波―――…‥

「レディっ! ごっ…、誤解だよ!」
「おい、夕凪っ!」

リオンと雷波が慌てて追いかけたのは言うまでもない。


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あきゅろす。
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