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暗闇なんてそんなにいいものじゃない。
そこには声を出すこともできずに、膝を抱えて助けを待っている人がいる。かつての夕凪がそうであったように。
だから、暗闇に怯えるその人を見つけたら言ってあげようと思っていた。

『さあ、出ておいで』

にっこりと力強く微笑み、不安げな表情を浮かべる亜希の肩を優しく叩いた。


「君を…助ける!」

やっと亜希に声が届くところまで来ることができた。
暗闇で伸ばし続けた2つの手がしっかりとお互いを掴む。


「……ありがとう…夕凪…」
「ううん。お礼を言うのはまだなんじゃない?」
「そうだね」

本当の脱出はこれから―――…

それでも亜希の心に黒い雲はない。
今はしっかりとした光が自分の居場所を照らしてくれていた。


「………ねぇ…夕凪…?」
「ん?」

言おうか言うまいか散々迷って唇を動かしたあと、ようやく決心がついたように亜希が口を開いた。

「……怒ってない?」
「え?」
「僕、夕凪に散々ヒドイこと言っちゃったから」

沢山傷つけた……

「中西くんっ」

しゅん…と俯く亜希を夕凪が嬉しそうな声で呼んだ。そして自らの心臓のあたりを拳でトントンと叩く。

「聞いてみて」

ちょんちょんと手招きをする夕凪に亜希が近づくと、夕凪は亜希を引き寄せて自分の左胸に亜希の耳を当てさせた。

「えっ、えっ、何?」

亜希が動揺するのも無理はない。夕凪に密着した頬はたちまち熱が上っていく。

「聞こえる?」
「え?」
「俺の心臓の音」
「……心臓?」

自分の心臓の音が煩すぎてそれどころではない。

「俺ね、スッゲー嬉しいんだよ」

……嬉しい?

「中西くんが俺のことを頼ってくれて。だからすっごくドキドキしてる」

えへへ…と脳天気な笑い声を上げながら、夕凪は抱き寄せた亜希の頭に顎を預けた。

……くすぐったい。体の内側をムズムズと走る不思議な心地に、亜希は震える手を伸ばした。そして自分と同じくらい華奢な背中をぎゅうっと抱きしめる。


「聞こえる。夕凪の心臓の音……」

とても、安心する……温かくて、力強く脈打つ鼓動。

「ねぇ、夕凪」
「なあに?」
「僕、ハルトたちに本当のこと話そうと思うんだ」
「……そっか」
「でも、ハルトたちに本当のこと言ったら……嫌われるかな?」

夕凪の背中に回された腕に力が籠った。

「嫌われても仕方がないよね……」

不安で震える亜希の背中。
夕凪はひとつ大きく深呼吸をすると、亜希の体を離し、大丈夫と笑ってみせた。

「木葉くんや奈津次さんのこと信じられない?」
「……え?」
「俺はあの2人がそんなことで中西くんのこと見捨てるなんて思えないんだけどな」

この数日…たった数日だったけど一緒に過ごしてよくわかった。
彼らは特別な絆で結ばれている。
それぞれが勝手に過ごしているようで、ちゃんとお互いを想い合っているのだ。

「家族なんでしょう?」

彼らは血こそ繋がっていないがお互いが認めた家族なのだ。離れられるわけがない。


「……うん。夕凪、ありがとう」


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あきゅろす。
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