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自暴自棄―――…‥
そんな気持ちが亜希の心をフッと軽くした。

「もしかして、僕のせいで女の子に振られちゃった?」

にこりと穏やかに微笑み、臆面もなく亜希が首を傾げる。

その言葉に上級生たちはわかりやすく顔を赤くした。
まったくもってその通りだったのだ。自分らが高嶺の花に憧れるように、彼女たちもまたアイドルの彼らに憧れを抱く。
見上げる彼女たちの視界に、それを見上げる自分たちが映ることなどないのだ。
それまで同じ目線で話していた女友達までもが、近距離にいるアイドルへと目線を奪われていく。その彼女たちが自分たちに向ける視線はどうだろう。まるで野蛮な動物を見ているかのような見下した冷たい、どこか嘲りを含んだ色を持つようになった。
そして実際に言われるのだ。
『あんたたちと彼らじゃ格が違うから』『あんたたちは眼中にない』『あんたたちは男っていうよりオスっしょ』
アイドルという存在に目が眩んだ女子の冷たい視線に何度もプライドを傷つけられてきた。


「可哀想にね。でもそれって本当に僕の所為?」

亜希の言葉が辛辣に彼らの傷口を抉る。
そして与えられる決定打。

「単なるヒガミだよ、それ」

こんなことを言えば、彼らを怒らせることなどわかっていたはずだ。しかし亜希は口を止めなかった。
憐れんだ目で彼らを見つめ、わざと挑発するような言い方で怒りを煽ったのだ。

「何なら一緒にお願いしてあげようか? あなたと付き合ってあげて下さい、って。もしかして僕の頼みならきいてくれるかもよ?」

無垢を気取って亜希が名案のようにポンと手を叩く。

「……テメェ」
「バカにしやがって!」

とうとう下品な怒鳴り声が耳を劈いた。

「何…、じゃあどうしたいの?」

笑顔を消し、亜希も眉を顰める。


「その面、二度とおがめなくしてやるよ」

やはり、彼らの怒りが行きつく先は暴力。律儀なほどにセオリー通りだ。
しかし亜希は不思議と怖くなかった。

「それは困る。商売道具なんで……一応」

こんな状況でもまだ笑っていられる。
悪魔に心も体も売ってしまった自分は、きっともう痛みなんて感じないのかもしれない。


「知るか!」

彼らの1人が亜希の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。

「ああああ、ごめんごめんごめんてば!! 顔だけは勘弁…」
「だったらテメェがケツ差し出せやァ!」

キンと鼓膜を突き刺す怒号に亜希は目を瞠った。
そしてストンと表情が抜け落ちる。

ああ…。なんだ。そういうことか。

ホラ。怖がることなんて何もなかった。ほんの少し景色が変わっただけ……


その先に見えるのは、とっくの昔に堕ちた世界―――…‥


「いいよ…」

亜希はアイドル特有の華やかな笑顔で微笑んだ。同時にアイドルらしからぬ妖艶で淫靡な雰囲気を纏わせて―――…



「どうせなら、3人いっぺんにオイデよ……」


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