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「デデデデ、デートじゃねーよ!」
大声で勢いよく否定する春人を横目に、亜希は座ってくつろぐ夕凪に視線を留めた。
「あんたが、鷹森夕凪?」
「うん。そうだよ」
訊かれた夕凪はにっこりと答える。
「僕、中西亜希。君と同学年だよ、クラスは違うけど。よろしくね」
「よろしく」
愛想のいい笑顔を貼り付けて挨拶を寄越した亜希に、夕凪も軽く会釈で返した。
「その様子じゃあ、僕のことあんまり知らなかった? 一応有名人なのに…」
「ごめん」
「いいよ。あの学校じゃあ君の方が有名人みたいだし」
厭味なのか本心なのか……、あどけなく笑う亜希の表情からは読み取れない。
「僕…ずっと思ってたんだよね」
夕凪をじっと見つめ、亜希は勿体ぶるように口を閉じた。
何だろう…、夕凪は首を傾げた。
亜希がゆっくりと口を開く。
「すっごい偽善者顔だよね」
ぴくりとも笑顔を崩さない亜希だが、その言葉があまり良い意味を持たないことは夕凪にもすぐにわかった。
あまりのことに夕凪は言葉を失ってしまう。
まるで冷水を浴びせられたようにヒュッと息を飲む。
「困ってる人がいると放っておけないタイプ?」
固まる夕凪を見下ろしながら、亜希が一歩ずつ部屋に歩んできた。
「助けてって言われたら断れないタイプだ」
夕凪を推察しながら、亜希は夕凪の前にしゃがみ込む。
「……ねえ、じゃあもし僕が助けてって言ったら助けてくれる?」
告げられた距離は目の前。途端に亜希の顔がくしゃっと歪んだ。
「……え?」
「僕のことも助けてよ」
大きな瞳は涙を浮かべて潤んでいた。
「……中西…、くん?」
夕凪が、震える亜希を宥めようと手を差し延べたその時――――…‥
グッ…と腕を捕まれ、夕凪の視線が目の前のカーブをなぞった。
いつの間にか天を仰ぎ、後頭部に鈍い痛みが走る。
覗き込むのは陰った亜希の顔―――…‥
「ねえ、一発ヤらせてよって言ったらヤらせてくれる……?」
「亜希…ッ!」
春人が慌てて夕凪の上に覆い被さる亜希を引っ張り起こした。
それに対し亜希は大した抵抗もなく、少し面白くなさそうに退いた。
「冗談だよ…ごめんね」
謝る声もあっさりとしたもので、亜希は何事もなかったように愛らしい仕草で頭を傾げた。
「僕の泣きまね上手い? ビックリした?」
無邪気な瞳が問いかけるが、夕凪は未だ言葉を発せずにいる。
ビックリ、というか……状況がうまく飲み込めない。
「気にするな夕凪。亜希と春人は基本的に自分以外は嫌いな奴らだ。真面目に相手をする必要はない」
動けない夕凪を奈津次が優しく抱き起こしてくれた。
「へえー…、ナツって僕ら以外にもそんな顔するんだ?」
「相手にもよる」
まるで母親の愛情を横取りされた子供のように、亜希が無愛想な顔をした。
ところが奈津次は全く取り合う様子もなく、亜希には一瞥もくれなかった。
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