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意外な時間


「……そんな顔しないで、レディ」

言葉に詰まってしまった夕凪に、助け舟を出してくれたのはリオンだった。

「僕のプレゼントを断ったのは君が初めてだよ」

困ったように笑いながら、リオンは夕凪の頬にかかった髪をかき上げた。
ゴーグル越しに夕凪とリオンの目が合う。


「このバラはね、僕が育てたんだよ」

予想外のカミングアウトだった。驚いた。
噂の怪盗リオンがバラの花を自家栽培だなんて……

「今まで僕が君にプレゼントしてきたバラは、毎日僕が世話をして育てた自慢のバラだ」
「マジで! スゴい!」
「……、そうかな」

夕凪が目を輝かせるとリオンは照れたように笑った。
そんなリオンの様子が新鮮で、少しだけ彼に親近感を覚える。

「他には? 他には何を育てているの?」
「えっと…、ハーブなら何種類か……」
「おースゴい。あ、ペットとかは? 飼ってる?」

いつの間にか夕凪の質問攻めタイムが始まった。

「犬を飼ってるよ」
「どんな犬?」
「黒い大型犬」
「オス? メス? 名前は?」
「名前はコーディリア。メスだよ」
「コーディリアって、シェイクスピアの?」
「うん。リア王のコーディリア。彼女だけは僕に嘘を吐かないから……」

心なしかリオンが寂しそうに見えて、夕凪は彼の手を咄嗟に握ってしまった。

「いい相棒なんだね」

リオンは驚いた顔をしたが、夕凪の温かい笑顔につられて自然と頬を綻ばせた。

「レディに負けないくらいの美人だよ」
「何だそれ」


それから家族のことやどこに住んでいるのか、何故怪盗をしているのか等と訊いてみたのだが、肝心なことは全て「ヒミツ」で交わされてしまった。
わかったことといえば、コーディリアという名前の犬を飼っていること、かなりの読書家であること、家には温室があってバラを育てているということ、それから……本当はすごく淋しがり屋なのかもしれない、ということだけ。

ただ、他愛もない会話が妙に弾み、時間が経つのをすっかり忘れてしまっていた。
気がつくと、日が延びた初夏の夕暮れとはいえ、部屋は既に外の明かりだけでは薄暗く感じる時刻になっていた。


「わ、もうこんな時間?」

時計を目にした夕凪は驚いた。


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