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「かわいい……」

熱を帯びたリオンの顔が近付いてくるのがわかる。
ヤバい…、この流れはおかしい!!
何とかしなきゃ!

「……っだいたい、あんたは現れる時間が不規則なんだよ。怪盗が陽も落ちない内から現れるんじゃねェよ!」

偏見であろう。
だが、夕凪が精一杯の反論で突き飛ばしたリオンの体はよろけて2・3歩後退ると、そのままベッドの際に腰を落とした。
反撃成功!!
夕凪がほうと息を吐き出しその姿を確認すると、ちっとも参った様子のないリオンが尚も余裕といった表情で笑みを浮かべていた。

「んー…それはねぇ、僕なりの恋の駆け引き……か、な?」

語尾にハートが見えるような口調で可愛く言ったつもりだろうが、少しも可愛く見えない。
夕凪の眉間が益々深いシワを刻む。

「ホラ、僕がいつ来るのかわからない方がドキドキするだろう?」
「ああ、間違いなくドキドキするな。あんたとは別の意味で」

イヤミのつもりで睨み付けたはずだった。
少なくとも大概の人はこれで怯む。
だが彼は違った。

「素直じゃないな、レディは。そこが可愛いんだけど……」

嬉しそうに笑うのだ。しかも、

「駆け引き上手なのかな? この僕が翻弄されてしまいそうだよ……」

うっとりと言いながら、リオンはベッドの脇からバラの花束を取り出した。

「今夜は、この花びらの数だけ愛を語り合おう」

冗談じゃないッ!!!

「お断りします」
「どうして? 恥ずかしいの?」

そんなセリフを吐くヤツの方が恥ずかしい。

「これは受け取れないです。ごめんなさい」

苦そうに眉を寄せると、夕凪は差し出されたそのバラをリオンの手ごと押し戻した。

「どうして? バラは嫌い?」
「そうじゃないけど。……だから、俺は…」

じゃあ、どうして…?
リオンの言葉に夕凪の言葉が詰まった。

向き合うってこういうこと?
一言、気持ちには応えられないと言えばそれでいい。
でも、はっきり言ってしまえばリオンを傷付けてしまうかもしれない。
この人を傷付けずに、断ることはできないのか……
人との繋がりを失うことが怖い……
続きの言葉を探す夕凪は、俯いたまま瞬きを繰り返した。
それは、込み上げてくる苦い感情を流さないようにしているようでもあった。


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あきゅろす。
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