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「ちょっと、やだぁ」
「あんまり鷹森君イジメないで!」
「あんたが言うと変態っぽいから!」
「汚い手で触らないで」

女子の雷波に対する大ブーイングが起こるが、雷波はそれを平然と受け流す。
そんなやりとりが夕凪にはどこか遠くの方で行われている気がした。


「元気ないね…悩み事?」

ふと英が心配そうに夕凪を覗き込んだ。

「え、あ…何? ごめん、ぼーっとしてた」
「悩み事があるのかな、って思って」
「あー…悩み? ううん、悩みなんて全然、」

少し大袈裟なくらいに首を振って否定をしたが、正直なところ夕凪に悩みの種がないなんて嘘だ。
怪盗リオンのことで胃が痛くなるほど悩んでいる。
しかし、これは割と何でも相談し合っている英にも話したことはない。
それは相手が相手なだけに変な心配をかけたくない…という理由と、もう一つ、
男に好かれました、とは言いたくない……そっちが本当の本音だった。


「寝不足なんだってさ、夕凪」

事情を知る雷波がすかさず夕凪のフォローを入れてくれた。
これは素直に雷波に感謝だ。

「そうなの?」
「あ、うん。そうなんだ。でも大丈夫だから。心配かけてゴメンね」

片目を瞑って謝った事に特に深い意味はないのだが、それを目撃したクラスの女子たちが途端に黄色い歓声をあげた。
その裏に間違いなく野太い声が混ざっていたことは、この際聞かなかったことにしよう。
こんな風に、夕凪の周りでは彼が何かをする度にちょっとした騒ぎが起きるのだ。毎日のことで慣れはするが、そこに打開策があるわけでもなく、夕凪は苦い笑いをするので精一杯だった。

「そっか、ならいいんだけど。でも悩みがあったら相談するんだぞ!」

まるで姉のように心強い言葉をくれる英に、夕凪はいつも感動してしまう。
こうして明るく振る舞っている英だが、彼女自身も結構大変な立場にいるのだ。

というのも、美人で頭もいい英は当然人気も抜群なだけに、厄介なことがしばしば起こる。
例えば、ストーキングまがいのことをされたり、モテる英を妬んだ女子に嫌がらせされたりと……夕凪同様、英にはその手の悩みが尽きないのだった。
似た悩みを持つ者同士、夕凪と英は良き相談相手として話をすることも多かった。


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