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厄介な相手


***


それからなのだ、怪盗リオンが夕凪の家に現れるようになったのは……。
どうやって調べたのか、夕凪たちがリオンと遭遇した翌々日には、既に夕凪の所にリオンからのラブレターが届いていたというのだ。
それも毎回、一本のバラの花が添えられて……
しかも昨日の様子からして、リオンは夕凪が男であろうと女でなかろうと(意味は同じだが)関係ないらしい。
つまり最高にタチが悪い。

教室に入ると、夕凪は一番後ろの自分の席に突っ伏して唸った。

「うー…」

何だか胃がキリキリしてきた……気がする。

「もう観念して奪われちゃえば?」

そんな血も涙もない言葉を口にするのは雷波だ。
思わず睨み返してしまった。


「おわっ、そんなに睨むなよ……俺が悪かったから!」
「だって……」

だって、

「あの人も俺も男だよ? ……でも俺、そういうのわかんないし」

そう言って再び夕凪は机に頬を押し付けて深い溜め息を吐き出した。


「まぁな……」

雷波も夕凪を気の毒だとは思っているようだ。
慰めるように夕凪の前の席の椅子を引いて腰掛けた。

因みにそこは雷波の席ではない。
毎朝HRの始まるギリギリまで隣のクラスの彼女とイチャイチャして帰ってこない長谷川君の席である。
故に雷波の特等席になってしまった夕凪の前の席。


「だけど、あいつ悪いヤツじゃなさそうじゃん? なんか憎めないんだよな」

雷波は椅子の背を跨いで後ろ向きに座り、夕凪の机に片手で頬杖をついた。

「俺だって……」

俺だって別にあの人が嫌いな訳じゃない……
夕凪は口をすぼめた。

そう、友達としてならば夕凪だって大歓迎…とは言い切れないまでもそれに近い形で受け入れられたはずだ。
だから厄介なのだ。

もしもリオンが最低の嫌がらせ変態男で直ぐにでも夕凪に襲い掛かろうものなら、即行で警察に引き渡したり夕凪お得意の空手で返り討ちにすることが出来た。
だが、夕凪は一度彼に助けられているのだ。
手荒なことはしたくないというのが夕凪の見解だ。

「でも俺、男だよー?」

譲れないプライドと恩との葛藤に、夕凪はぐしゃぐしゃと頭を掻きむしった。


「うん、知ってるよ。鷹森くんがスゴく男らしくて優しいってこと」

ふわっと甘い香りが漂い、声がした方を振り向くと、そこにいたのは同じクラスの藤咲英(フジサキ ハナブサ)だった。


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