3 「……ゆう君、オレンジジュース、もう一杯飲んだらあかん?」 夕凪の袖をクイクイと引っ張って、かむいの大きな瞳が覗き込む。 「んー…仕方ないなぁ。あと一杯だけだよ?」 夕凪も大概かむいには甘いらしい。 困ったように笑いながらも、結局は見逃しのイエスを許してしまうのだった。 「やったぁ! じゃあゆう君と、あとそっちの黒いのの分も持って来たるわ」 黒いの…、とは恐らくリオンのことであろう。 「かむい、そんなに持てないだろう? いいよ、俺が持って来てあげるから」 立ち上がったかむいを再び座らせると、夕凪は入り口に向かった。 「あ、リオンは烏龍茶でいい?」 「ああ…うん」 特にこの2人には違和感のない会話だったのだが…… 「リオン?」 ひとり、かむいが怪訝な顔で眉を寄せた。 「あ。………え、っと…リオ山さん。だから、リオン……なんつって…」 渇いた笑いで必死のフォローをしてみる夕凪。 「スズキさんじゃなくて?」 そして再び立派な墓穴。 「リオ山…鈴樹さん」 無理だろう。 「変な名前」 全く以てその通り。 返す言葉もなく夕凪は俯いた。 「ハハハ…よく言われるんだ。だから、よかったら君もリオンって呼んでくれないかな?」 それを果敢に援護しようとするリオン。 もはやフォローも2人がかりである。 「なんや、ややこしいから“黒いの”って呼ぶわ」 「や…、それはちょっと嫌かな。だったら、スズキサンでいいよ…」 「そんなん一度に言われても覚えられへん。えぇやん、ウチのクラスの木暮くんかて眼鏡かけてるから“メガネ君”やし。贅沢言うたらあかんよ。木暮君が可哀相や」 だったら木暮君も名前で呼んであげてくれ……。 そんな複雑な思いを抱くリオンの心とは裏腹に、夕凪は満足そうに微笑んだ。 なんだ、仲良くやってんじゃん。 「じゃあ俺、ジュース取ってくるね」 柔らかい笑顔を残し、階下へと降りていってしまった。 トントントンと足音が小さくなっていくのを確認して、かむいがくるりとリオンに向き直った。 「―――…ふぅ。やっと、腹割って話せるなァ? 黒いの。」 さっきまでの無邪気な子供の表情とは一変して、かむいが冷たい視線をリオンに向けた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |