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春眠暁を覚えず

「この魔法で大切なのは……であって、また……は…」


穏やかな春の日差しが降り注ぐ午後の教室、私はエルバート先生の授業を受けていた。


(ね…眠い…うーん、先生の言葉がとぎれとぎれにしか聞き取れない…)


先生の静かな口調も加わって、こくりこくりとつい船を漕いでしまう。

眠気覚ましに頭をふってあたりを見回すと、少し後ろの席ですでにラギは眠っていた。


(うらやましい…って違う違う!!ちゃんと勉強しなきゃ…)


そう思ったとたんに、また一瞬意識が飛ぶ。

手元のノートはふにゃふにゃとしたよくわからない文字で埋められていて、自分でも読めるか微妙だ。


「属性によって……ければ……が…あり……」


どんどんまぶたが重くなって、気づかないうちに私は机に突っ伏していた。







―――――
―――








「…ルル、いい加減起きてください」


壊れ物を扱うようにためらいがちに肩に触れた手が、私を軽く揺すった。

あきれたような口調とはアンバランスなその力加減は最近になってから。

そしてなんだかくすぐったくなる――













――低く響く、甘い声。












「…ぅん、わかった…」


なんとか答えるが、身体は言うことをきかない。

身体を揺する手に逆になんだか安心して、ぎゅっとその手を握ってみる。

いつか頭を撫でてくれたその手は、今では私よりずっと大きい。


「ちょっ…!!離して下さい!!」


焦ったような声になんだか笑ってしまう。

中身は変わってないんだもの。


「ふふっ、エスト照れてる」


「…別に照れてません」


ちらっとエストの顔を覗き見る。

…もう女の子の格好は似合わないだろう。

ふと悪戯したくなって私は握った手にちゅっと口付けてみた。


「うわぁっ!!ルル、寝ぼけてないで下さい!!」


今度は顔を紅くして手を引っ込められた。

クスクスと笑って身体を起こすともう外は夕暮れのようだ。

…いったい私はどれだけ眠っていたのだろう。


「そういえば、どうしてエストはここにいるの?」


エストはさっきの授業はとっていないのに、どうしてここにいるんだろうか。


「はぁ…あなたが授業が終わったのに起きないからラギから連絡が来たんですよ」


そう言うと再び私に手を伸ばした。

なんだろう?、とその手を目で追うとエストのマントが私に掛けられていた。

彼がパサリとマントを羽織る、その仕草もなんだか男っぽい。


「まったく、昼間は暖かくてもまだ夜は冷えるんですからね。それに…他の人に無防備に寝顔なんて見せないで下さい……帰りますよ!!」


最後の言葉に今度は私が驚かされた。

そんな私を口に出した本人は、恥ずかしそうに焦ってぐいっと立ち上がらせようとした……が。


「きゃ…!!」


思いがけない強い力に私は勢い余ってエストの胸にすっぽりとおさまってしまう。

いつの間にか身長は大きく差がつき、勢いをつけて抱きついてもエストは倒れなくなった。

そんなエストは今回も余裕で私を受け止めた。


「…っと、すみません。強く引っ張りすぎました……って、ルル?」


せっかくの機会に私はエストの背中に腕をまわして、ぎゅうっと抱きついた。


「エスト、男の人みたい…」


「…変わったのは僕だけじゃないでしょう」


エストは不完全な私の言葉を正確に読みとったらしく、困ったように微笑み、私の身体に響く低い声でそっと囁いた。







あなたこそ、これ以上きれいにならないで



 

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あきゅろす。
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