Sweet Valentine…
なんだか学校内―特に男子―がそわそわし始める2月。今までだったらそんな奴らを馬鹿みたいに見ていた部分もあったけれど、今年はそいつらの気持がよくわかった。
2月14日――バレンタインデイ――
ルルとその、こ…恋人関係になって、俺はこういうイベントの大切さを理解した。
"いつも伝えられないありがとうを彼に"
その言葉に納得してしまうくらいには。
「ねぇ、ラギはアルバロと違って甘いもの好きだったよね?」
そんな俺にルルは先日そう聞いてきた。…アルバロと違って?
あいつの名前が出て来たことにいやな予感がしたが、取り合えず答えた。
「別に嫌いじゃねーけど…」
「だよねっ!!うんっ、私、頑張るからね!!」
えへへ、と頬を染めて照れ笑いをするルルに俺まで顔が赤くなる。…少なくても俺は好きな奴からプレゼントをもらえるらしい。
でも、"アルバロと違って"ってことは、あいつを含めたほかの奴らにも配るのだろうか。…義理チョコだとはわかっていてもいやな気分になる。
そして当日。案の定ルルは朝からパタパタと走り回っていた。
「あっ!!おはよう、ラギ。ねぇ、ビラールはもう食堂かな?」
…俺のことはどうでもいいのか?
そんなことを俺が言えるはずもなく、多分な、と答えるとルルは急いで食堂へ行ってしまった。
この前の様子からもらえないことは心配していないが、できれば一番に貰いたかった。そう思っていることに気づいて俺は茫然とした。…どんだけ心が狭いんだよ、俺。
そんなこんなで今日の朝は一緒に登校することもできずに俺は悶々とした1日を過ごした。帰りは約束しているから一緒だけれど。周りでは浮ついた空気が流れ、チョコを配っている女子も多い。
「あの…ラギさん?」
授業がすべて終わり帰ろうとするとアミィに呼び止められた。
「あ?何か用か?」
イライラしていたせいでつい語気が荒くなってしまい、アミィはびくっと体を縮ませた。
「あ、あの…これ、作ったのでよかったら食べてください。いつも、ルルがお世話になってるから」
まるでルルの姉のような態度に俺はびっくりしつつも受け取った。
「ああ、ありがとう、あのさ…あいつ、他の奴にもチョコ渡したのか?」
「ええ…あっ!!あの、でも…ラギさんのは特別、ですよ。きっと。私もよく見てなかったけれど一生懸命に作ってましたよ」
気まずそうにそう言うアミィにと別れて待ち合わせ場所に行くとルルはもう来ていた。
「朝はごめんね?みんなに学校で会えるとは限らないから、朝に渡しちゃいたくて…」
ルルはなぜかいつも以上にはしゃいだ様子で話しかけてきた。
「別に…ほら、帰んぞ?」
"特別"――その言葉を意識しないようにしながらいつものように寮に帰ろうとすると、俺の腕をルルがつかんだ。
「なんだよ?」
「え…えっと、その…ちょっとだけ寄り道しよ?」
そう言って外壁沿いのベンチに座る。あたりはそろそろ日が暮れ始めて人気もない。
「いいけど…寒くなるからちょっとだけだぞ」
そう言って隣に座るが、それ以降ルルはもぞもぞとしていて何も言わない。
そんなルル以上に、俺は緊張していた。心臓がドキドキしてるのをルルに気付かれないか心配になるくらいに。
「あの、ラギ…?これ、バレンタインのチョコレート」
おずおずと差し出されたのはきれいにラッピングされた小さな箱。
「あ…ありがと。開けてもいいか?」
緊張を押し隠して受け取って聞くと、ルルは顔を真っ赤にしてこくんと頷く。
俺は丁寧にリボンをほどき箱を開ける…入っていたのは小さなチョコレートケーキ。でも…
それを見たとたん、俺は自分の顔も赤く染まっていくのがわかった。
"Dear.Lagi
いつもありがとう
大好き"
「えへへ…やっぱり、はずかしいね」
頬を染めて照れくさそうに笑うルルは、やばいくらいに可愛かった。
「あのな…その、ありがと、マジでうれしい」
こういうときに口下手な自分が情けない。もっとかっこよくこの気持ちを伝えられたらいいのに。
「うんっ、じゃあ帰ろうか」
そう言って立ち上がろうとしたルルを俺は無意識に抱き寄せた。ふわっとルルの甘い香りが俺をくすぐる。
「ラ…ラギ?」
びっくりしたルルが俺を見上げるのに我慢できなくて、俺はルルのやわらかな唇に自分のそれを重ねた。
「俺も、好きだよ…」
Sweet Valentine…
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