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悩み多き優しい日々


「おとうさまっ!!」

「父上っ!!逃げてください!!」


ちょっとした式典に参加するために王宮へ向かおうとしていた時だった。

私の後ろで幼い二つの声が同時にエントランスに響いた。一つはまだまだ舌足らず、もう一つはしっかりとはしているがいっぱいいっぱいに焦っていた。

その内容は理解したが、可愛い我が子に何があったのか。

命の危険は感じなかったので、そのまま振り向こうとした時だった。


「フェリアっ!!」

「…っ!!」


べちゃ。





「………」


ぎゅっ、でも、ドン、でもなく。


べちゃ。


重くなった足元に視線を落とすと、思った通り私の足に娘のフェリアが抱きついていた。

なぜか全身びしょぬれで、なぜか私の正装である純白のズボンとマントの一部を真っピンクにして。


「…フェリア?」

「おとうさま!!おじさまのところにいくのでしょ?フェリアもおともさせてください!!」


一体フェリアに何が起こったのだろう。いつもどおり元気いっぱいなので怪我などはしていないようだが、全身を濡らしているピンクの液体の正体は…?


「も、申し訳ありません、父上っ!!…すぐにお着替えを…フェリア、離れるんだ」


急いで追いついた息子も、娘と同様に銀の髪をピンクに染めていた。白い肌と相まって、まるでルルの子供時代を見ているようだ。


「やだ!!おにいちゃんはきらい!!わたしはおとうさまといっしょにいくの!!」

「我儘ばかり言わずに、自分のしたことの責任をとりなさい」


娘より一回り大きいがまだまだ小さな手で、息子は娘を私からはがそうとするが、強情な娘はより一層力を入れてしがみついてきた。


「はーなーれーろー!!」

「いーやー!!」


自分の足元で起こっているほのぼのとした光景を見ていたいが、着替えて王宮に行かねばならない。私はピンクな二人を抱き上げた。


「父上!?お召しものが汚れます!!」

「どうせ着替えるんだ。それにしても何があったんだ?ルルはどうしている?」


「お母様はこの惨状の後始末をしています。そしてこれはフェリアがお母様の魔法薬の調合のマネをした上に、それをひっくり返したんです。ただの色水なので御心配はいりません」


なるほど、事情は分かった。部屋に戻る廊下にも、小さなピンクの足跡が二セット残っている。

ちらり、と右腕のフェリアを見ると、悪いことをしたことは分かっているらしく、視線を合わせようとしなかった。

その視線を左腕のアニスに移すと、髪がピンクに染まっているかが気になるのだろう。髪をしきりにいじっている。


「ビラール!?もうっ、フェリア!!」


部屋に戻ると、既に着替えを終えたルルがピンクな三人を迎え入れてくれた。

早々に着替えに向かうアニスに対して、フェリアはルルに怒られるのが怖いのだろう。腕から離れようとしない。

「フェリア、悪い子は王宮に連れてはいけないな。帰ってきたらお説教だが、それまでもしっかりとルルに怒られなさい。アニス、お前はどうする?」

「…行きたいのはやまやまですが、からかわれるのが目に見えていますので、今回は遠慮します」


びくり、と身体をこわばらせるフェリアをルルに渡すと、早速ルルはフェリアに片付けをさせに出ていった。

日頃は何も言わないが、アニスもやはり王宮に行きたいのだろうか。そう思って声をかけたが、着替えを終えたアニスに私は驚きを隠せなかった。


「…そうだな。では、改めて行ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ」


アニスの髪はしっかりと銀以外の色を主張していて。

からかわれる以上に、色目を向けられそうな息子の外見に、私は頭を悩ませるのであった。


悩み多き優しい日々




 



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あきゅろす。
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