あなたとの休日
本当だったら楽しい楽しい日曜日。
たとえ彼がいつも以上に付きまとっていようとも、楽しい日曜日、なのだけれど…
「…………」
「どうしたの?ルルちゃん。せっかくのデートなんだから、ピリピリしてたら面白くないよ?」
デート、とアルバロが言うだけあって、私の手は隣を歩くアルバロにギュッと握られている。
今日の誘いはアルバロから、デートプランもアルバロ任せ。
それに加えて寮からつながれたままのこの手。
裏があることを隠そうともしないアルバロの行動にピリピリするな、という方が無理な話だ。
「ピリピリなんてしてないわよ?アルバロがあんまりひっついてくるからドキドキしてただけ」
「ドキドキね…じゃあ、もっと近づいてもいいかな?」
「きゃっ!!待って、いいって言ってない!!」
『いいかな?』という言葉自体を耳元で囁かれ、近づくアルバロの顔から私はとっさに手を離して距離を取った。
と、その瞳が一瞬楽しくて仕方ないように細められる。
「…ね、アルバロ?一体なにをしようとしたのかな?」
「もちろんキスだよ、今回はお預けみたいだけど。その調子で頑張ってね?」
にっこりと楽しそうに笑うアルバロに、私は今見たものが真実だったと確信した。
彼が顔を近づけた時に視界にちらりと映ったのは、彼の手に握られた怪しい小瓶だった。
「…ピリピリ、してもいいかしら?」
「どうして?デートだよ、デート。ほら、ちゃんと手を握ってないとね」
再びぎゅうっと指をからめて握られた手は私とアルバロをつなぐ鎖。私は一世一代の休日になることを予想してため息をつくのだった。
――――――
―――
―
「はぁ、疲れた…せっかくの映画もご飯も緊張してたら楽しめないわ…」
デートプランは危険がいっぱいだった。映画を見て、ちょっと遅めのお昼を食べる。
真っ暗、密着、食事…
一瞬でも気を抜いたら何をされるかわからないのだ。
実際、アルバロは冷たい笑みを浮かべながら最初のような命の危機を感じる悪戯から、足をひっかけて転ばそうとするような悪戯まで仕掛けてきた。
…意外と子供っぽいと思うくらいに。
そして午後はショッピング。
「またこういうの着せたがるし…」
アルバロが選んだ服と共に押し込められた試着室。
ほんのちょっとの間だけれど一人になってほっと息をつく。
…が、目の前にあるのはチャイナドレス風のワンピース。白にピンクの刺繍は可愛らしいけれど、ぎりぎりまで入ったスリットは可愛くない。
それでも仕方なく着て見せるくらい…と袖を通す。
「うん、やっぱり可愛い」
「やっ…んむっ!!」
「こらこら、大きな声出したら人が来ちゃうよ?」
なかなか上がらない背中のファスナーに苦戦していると、まさかの人物が閉まりきらない服の隙間から中に手を忍びこませてきた。
驚いて悲鳴を上げそうになった口はもう片方の手で塞がれてしまう。
試着室にまで入ってくるのも、こんな悪戯をされるのも予想外だ。
「ずいぶんと時間がかかってるから逃げたかと思って来てみれば、ずいぶんと扇情的な場面だったな」
「んんー!!」
徐々に身体の前へと伸びてくる手をなんとかしようと暴れようとするが、試着中の服が気になってうまくいかない。
「んっ!!」
「へぇ、いい反応だな?…………っ!!」
とうとうアルバロの手が私の膨らみを包む。初めて触れられる驚きにびくっと身体が反応した。
するとなぜかそれに気を良くしたアルバロが指を下着に掛けるのを感じて、私は最終手段に出た。
――――――
―――
―
「ルルちゃん、いい加減機嫌直してよ」
怒りをあらわに早足で歩く私の隣をアルバロはゆうゆうと口もとを押さえて歩いている。
「あんまりルルちゃんが可愛いからついつい…」
「嘘ばっかり言って、全然反省してないじゃない!!」
あまりに勝手なアルバロの態度に反論して、すぐに後悔した。
アルバロが反省なんてするはずない。無視したままでいればよかった。
「反省ね…してるよ?君の暴力に対して仕返しをしないくらいには」
思った通りなんの反省もしていないアルバロは『痛いなぁ…』とわざとらしく唇に触れる。
そんなアルバロにいろんな意味で頭が痛い。特に後頭部はずきずきとした痛みをうったえている。
たんこぶくらいはできたかもしれない。
「あぁ、もう寮に着いちゃったね。ゲームオーバー。今回はルルちゃんの勝ちかな?」
「そうね、今日は一日とっっても楽しかったわ!!……ねぇ、アルバロ、私が勝ったんだもの、お願いを聞いてくれるかしら?」
やっと寮の入り口にたどり着く。生きている、ということは私の勝ちなのだろう。
口調だけは残念そうなアルバロに、私からも何かしなければこの怒りはどうすればいいのだろうか。
「いいよ?俺に出来ることならなんでも、ね」
「十分だわ。来週の日曜日は私のために空けておいて?今度は私が計画するわ」
「へぇ…それは楽しみだな。じゃあその時にはこれ、着てくれるよね?」
アルバロが差し出してきたのは可愛らしいショップ袋。
中身は見なくてもわかる。…いつの間に買ったのだろうか。ちょっとためらったけどしぶしぶと受け取る。
「さて、ルルちゃん。恋人にプレゼントをもらったらどうすればいいと思う?ちなみに俺、さっきので唇噛んじゃったんだよ?」
「それは…その、自業自得よっ!!」
「ルルちゃんが舐めてくれたらすぐに治るのになぁ…ね…キス、するよ?」
よかったね、これが今日初めてのキスで。
そう囁いたアルバロに、私は彼の怖さを思い知ったのだった。
あなたとの休日
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