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笑顔の裏で

国を後にした時にはこのような気持ちで帰って来ることができるなんて思ってもいなかった。

多くの障害があったが、私は求めていた水の精霊との契約に成功し、そして…







そして、何よりも愛しい少女を手にすることができたのだ。











「やだってば!!下ろして、ビラールっ!!ちゃんと歩けるわ!!」

「そう暴れるな、ルル。慣れない衣装でお前を歩かせたくない。顔を見られることもないのだ、私のわがままを聞いてくれ」

「…そういうことを言うのはずるいわ」


私の腕の中でかわいらしい戯れを止めたルルは、諦めたようにつぶやいた。その姿はファランバルドにおいて高貴な女性の正装で、頭からつま先まで全身を布で覆い隠している。

近隣の権力者が集まる公式な場だから、というのは建前に過ぎず、内心は美しいその姿を誰に見せたくないという気持ちから選んだその衣装だが…数歩ごとにつまづいていて心配でしょうがなかったのだ。


「ビラール殿下、ルル妃殿下がお見えになりました」

「さて、あまり緊張するな。口うるさい年寄りの言葉に何か言う必要もない。行くぞ」

「ええっ!!嘘!?流石に下ろして、下ろしてビラール!!」





――――――
―――



「…ずいぶんと見せつけてくれるな、ビラール」

「我が愛しい妃はこの衣装に慣れていないので、失礼を」


本気で暴れて抵抗するルルを抱いたまま広場へ入ると、喧騒が一気に引いて静寂と不愉快な好奇に満ちた視線が突き刺さる。

こういった視線を向けられることに慣れていないルルがそっと私の腕をぎゅっと握ってきた。

大丈夫だ、とルルの不安なまなざしにこたえるように私は笑って見せる。


「改めて、私の唯一の妃である女性を紹介させていただこう。留学先の国にて私は彼女と共に精霊と契約を交わした。それとともに、彼女と一生を共にすると私は誓ったのだ。ルルは私が異国の地より請い願ってこの地に赴いた最愛の妃だ、無礼な行為は慎まれるよう」

(ビ、ビラール…!!)


私のセリフになぜかルルが焦ったように小さく名前を呼ぶ。

嘘も偽りもない事実を言っているのだ、私に非はないだろうに。


「そんな説明で納得ができるはずもないでしょう、殿下。素性もわからぬ者を妃…それも唯一とおっしゃるとは」

「なんの問題があろう。我が妃の事は私が知っていれば十分だ。下手に知られたらきっと私のようにルルの美しさに捕らわれる者が出るに違いないしな…そして、私は妃以外にに心を砕くことはない。私が愛するのは生涯お前だけだ、ルル」


最後の言葉をルルに向けて言うと、我慢できない、というようにルルは身体を小刻みに震わせ目を潤ませて私の胸にその顔を押しつけてきた。

そんな可愛らしい仕草に自然と笑みがこぼれる。

面倒な方々に釘をさすのも十分だろう、ルルの怒り声も恋しくなった。


「では、まだ妃はこのような場になれませんので…今日はこれで失礼をさせていただきます」

「……あぁ、お前の溺愛ぶりはよくわかった。詳しい話はまた今度にしよう」


当然のその言葉を最後に、私は広間を後にした。


 お前の愛らしさは私だけのものでいい
 

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