淡い憧れ
「ねぇねぇパパ!!パパとママはどんなふうに出会ったの?」
珍しくルルが出掛けて娘と留守番となった夜。
せがまれるままに膝に乗せて子供向けの絵本を読んでいると、最近になってませてきた娘は王子の手に残されたガラスの靴のように瞳を輝かせて俺に尋ねてきた。
「……ル、ルルから聞いたらどうだ?」
「いまっ!!いま聞きたいの!!いつ、どこで、どんなふうだったの?」
「あー…そ、そーだな…」
期待に胸を膨らませる娘の勢いは、幼くても女を感じて気圧される。
俺とルルの出会いは決してロマンチックとは言えないだろう。
今の俺にとってはあの時ルルに出会えた事は大切な思い出だけれど。
「ルルと初めて会ったのは16の時、魔法学校でだったな…」
「パパ、魔法使えないのに?」
「ま、まーな…」
意外に鋭い突っ込みにある意味日々の成長を感じつつ、この先を彼女の憧れを壊さないようにどう話そうか思索する。
「それでそれで?悪い魔法使いにいじめられてたママをパパが助けてあげたの?それともパパがママに一目惚れしてさらってきちゃったの?」
「あー…そーだな」
まだまだ非現実的な憧れを抱く娘を微笑ましく思いながらも『悪い魔法使いにいじめられてたママ』が明確に思い出された事に言い様のない気持ちも浮かんできた。
「確かにルルを狙う悪い魔法使いからルルを守ったりしたな。しかも結果的には拐ってきた…のか?」
わざわざ俺を試すようにちょっかいをかけてくる悪い魔法使いからルルを守り、ルルに惹かれる男達の目の届かない俺の生家へ連れてきたのだから。
「えー!!本当に!?パパかっこいい!!私、大きくなったらパパと結婚するっ」
「だーめ。ラギはママの旦那様なんだから」
嬉しい事を言って抱きついてきた娘が俺の上から伸びてきた手にひょいっと抱き上げられた。
「やだぁ!!私もママみたいにパパとステキな出会いをするんだもん」
「ステキな出会い?」
「うんっ!!パパが言ってたよ」
もう既に出会ってるだろ、という突っ込みより先に俺はルルから目をそらすようにそっぽを向いた。
嘘は言ってない。
俺の態度にルルはくすくすと笑いながら娘を寝かしつけに子供部屋へ入っていく。
俺は今度はルルに何を言えばいいのか考えるのだった。
―――――
―――
―
「ずいぶん私とラギとの出会いはロマンチックだったのね?」
思った通り、戻ってきたルルはおかしそうに笑っていた。
「俺は何も言ってねー」
「そうなの?ラギとの出会い…見たこともない生き物にびっくりしちゃったわ」
「あれは悪かったよ…ハプニングってやつだ」
あの時のことを思い出すと恥ずかしくなる。当時は心身ともに本当に不安定だった。
「でも、あれはあれで運命的だったわ。だってラギと出会えたんだもの」
「…あいつもいつか、いい出会いをするさ」
「ふふっ、そうね」
素直に『俺も』と言えない俺の言葉に、ルルは呆れたように微笑むのだった。
出会いは始まり
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