Distanse
だめ、駄目なんだからね、ルル!!
私の前を歩く彼の背中は、男の人のもの。
広くて、大きくて…どんなことがあっても守ってくれる。
ううん、背中だけじゃない。
あんなに大きい剣を簡単に扱うことのできるがっしりとしたその腕にも、硬そうに見えて実はさらさらと触り心地のいい髪にも、他の人には向けない甘い微笑みを浮かべる口唇にも。
触れたい、と思う私は変態さんなのだろうか。
最近、あいつ…ルルの様子がどうもおかしい。
何も言わずに俺を凝視していたり、急に顔を赤くしてみたり…目が合うと気まずそうに反らしてみたり。
あいつの事だから俺には意味がわからない事を考えているのだろうが、一緒に居るのになんだか一人にされている気分だ。
「…おい、なんでわざわざ離れて座んだよ」
決まりとなりつつある裏山で過ごす時間。
いつもなら隣に座るあいつは、なぜかぎりぎり手が届かないひなたの場所に座る。
「べ…別にっ?ちょっと日向ぼっこしたいなー、なんて…」
「こんな炎天下でそんなことするな。こっちに来いよ」
真夏に日向ぼっこはないだろう。避けられている、と感じながら俺はルルの腕を取って引き寄せる。
「っきゃ…やだ!!」
案の定抵抗するルルを無視して、ころんと俺の足に頭を乗せさせ押さえつけた。
「え、えぇっ!!なに!?」
「……嫌か?」
俺の問いかけにバタバタと暴れていたルルはピタリと動きを止める。
ひさしぶりに近くに感じるこいつの身体に自然と手が伸び、柔らかな頬に触れた。
「最近、避けてただろ…手、繋いだり。どうかしたのか?」
触れてこないだけで傍にはいるのだから、こいつの気持ちを疑って不安にはならないが、寂しくはあった。
「……ぃ…」
「あぁ?…って、おい!!」
訳がわからない、というようにきょとんとしていたルルの顔がなぜか徐々に泣き顔に近づいていく。
ヤバい。全く理由はわからないが、間違いなく俺が泣かせている。
「ひ…ひどいよっ!!私がこんなにラギに触れるの我慢してるのに…こんな事、するなんて…」
「…は?」
思いがけないセリフに頭がついていかない。
その隙にルルは開き直ったらしく、ぽろぽろと泣きながらも頬に触れていた俺の手を両手で包み込んだ。
「……っ!!ルルっ…」
細い指に抵抗できないでいると甲に触れる、柔らかな感触。
涙目でぎゅっと自分の口元に俺の手を抱きしめる姿さに、視覚的に別の意味でヤバい。
「もうっ、ラギがちびドラゴンになっちゃっても知らないんだから!!」
その言葉でやっと俺はルルの行動を理解した。
触れたくても、触れられない――
「ばーか、そんなに気にするな。あんまりなりたくはねーけど…ちびになったって腹が減るだけだ。だから…我慢するな」
包まれた手をそっとほどいて、身を屈める。
この距離はせめて俺から埋めよう。
「俺も我慢しねーから」
Zero Distanse...
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