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ぎりぎりの選択

この状況。

一体僕にどうしろというんだろう。

僕が彼女の嫌がることができないことなんて、明白だっていうのに。




ぎりぎりの選択









「…遅くなりました」


エントランスに置かれた時計は夜の10時を示している。帰ろうとした直後にちょっとしたごたごたがあり、いつもよりずっと遅い帰宅となってしまった。

煌々と輝く明かりに反して答える声は無い。おかしい。いつもだったら「おかえりなさい」とパタパタと僕を迎えにル…妻が迎えに出てきてくれるのに。


「ルル?遅くなってすみま……」


少し心配になりながらリビングのドアを開けた僕の目に飛び込んできたのは、妻のしどけない姿だった。

タオルが足元に落ちているところをみると、シャワーを浴びて髪を拭いている間に眠ってしまったのだろう。まだ湿って艶の残る髪、薄い夜着で彼女はソファーに横になって安らかな寝息をたてていた。

いくら夏だとはいえこのまま寝かせて置いたら確実に風邪をひいてしまう。なぜなら…


「はぁ…いくら家の中だとはいえ、どうしてこんな無防備な格好でいられるんですか…」


ルルの着ている夜着の裾はめくりあがり程よく引き締まった腹部がちらりと見えているし、胸元だって言わずもがなだ。


…これは据え膳食わねば、という状況なのだろう。

が、しかし。寝込みを襲う、というのは一般的に許されるのか、そうでないのだろうか。


ルルに嫌われることだけはしたくない。そう決めて僕は彼女をきちんと起こすことにした。


「ルル、起きてください。こんなところで転寝をしていたら風邪をひきます」

「んー…エ、スト…?」

「そうです、ただいま」

「おかえり、なさ…」


肩に手を置いて少し身体を揺すって声をかけると、うーん、という声の後に寝ぼけたままの声が返ってきた。

よかった、起きてくれた。と思ったのもつかの間、その声は徐々に不明瞭にかつ小さくなり、スースーという寝息に戻ってしまった。

再び名前を呼んで揺さぶって見るが、今度は全く起きる気配はない。


「…本当に、どんな試練なんですか」


つくづく純粋な彼女に振り回される。

そうは思うが、こんな姿は僕だけしか見れないんだ、と自分を鼓舞してそっと彼女を抱き上げて寝室へと運ぶ。


「っと…」


ベッドに下ろしてもルルが目を覚ます様子はないのに、先ほどから僕の目にちらつく真っ白で柔らかそうな膨らみや、キスをねだるような少し開いた唇が、彼女に触れたいという僕の浅ましい欲望をかき立てる。

少しだけなら…ふとそんな思いが脳裏をよぎった。

いつも彼女の無邪気さに翻弄される僕の気持ちも少しはわかってくれるだろう。

そんな苦しい言いわけをでっちあげて、僕はとうとうルルの身体に触れた。

あらわになった鎖骨に唇を寄せ、隠せないような跡を付ける。まさかルルは僕がこんなことをするとは思わないだろうから、明日の朝、焦るに違いない。

緩みそうになる頬を抑えて、唇を離したその時だった。


「エスト……やだぁ、もっと…」

「ル、ルル!?」


彼女の細い腕が僕の背にまわり、ぎゅうっと抱き寄せられてしまう。


「もっと、一緒にいて…?」

「ちょ…ちょっと待ってください、ルル!!落ちついて…」

「ん…エストのにおいだぁ…」


焦る僕に対して、未だに覚醒しきっていないルルは甘い声で容赦なく僕を煽ってきて。

ぐいぐいと僕の胸元に幸せそうに頬を寄せるルルに、さすがの僕の理性も崩れ落ちた。


「…もう、知りませんよ…?」


ぎしり、という音を立てて加わる僕の体重にベッドが軋んだ。








  おそろいの跡で迎えた朝に。


 

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あきゅろす。
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