睦言は甘く
俺はこの日をずっと、ずっと待っていたんだ。
駆け引きなんて面倒な事は苦手な俺が、苦労してでも欲しかったのは…
こんな言葉じゃなかったのに。
睦言は甘く
「〜〜〜っ!!やったぜ、これで4勝目だ!!」
ずっとルルに負け続けて、あの…歯の浮くようなセリフを言うカードを渡し続けてきたが、今回の勝利でとうとうあいつの言わないだろう男のロマン(笑)を聞けるのだ。
「いい、ラギ!!何を言っても私とは一切関係ないんだからね!!声が私なだけなんだからっ!!」
「わかったわかった。ほら、よこせよ」
どこかで聞いたようなセリフと、俺の手にカードを押しつけてルルは真っ赤になって女子寮へと逃げて行ってしまった。
まだ消灯まで時間があることを思えば少し残念に思いつつ、俺もこのカードが聞かせてくれるだろうセリフに期待して自室へと向かう。ビラールはまだ談話室にいる。
他の奴にルルの甘い言葉なんて聞かせる気なんてまっぴらだ。
「よし……さぁ、聞かせてもらうからな」
部屋についてとうとうその時。俺は大きく深呼吸をして、カードを取り出した。
―――――
―――
―
「えーと…おはよう、ラギ。カード、どうだった?」
「……あ、あぁ……」
翌朝、カードの中身が恥ずかしいものだと信じてやまないルルは、それでも好奇心に負けて聞いてきた。
だが、俺はというと…
「…?」
「あー…ルル?」
「うん、なに?」
「…やっぱいい」
ルルの顔をまともに見ることもできなかった。
「…そんなに変なこと、言ったの?」
「いや…変なこと、つーかなんつーか…あのさ、お前…俺のことどう思ってる?」
「…へ?ど、どうって、その…す、好き…だよ?」
頬を淡く染めながら、俺を真っ直ぐに見る瞳に俺の方が目を反らしてしまった。
「お、おう。だよな!!カ、カードがさ、ちゃんとお前に触れることもできない俺なんて嫌いだって……違うってわかってんだけどお前に言われたらって思ったらかなり、効いた」
「絶対言わないよ、そんなこと」
強い意志のこもった口調に再びルルを見ると、その視線は真剣そのもの。
「…だから、カードが言ったんでしょ?」
その雰囲気に押されていたが、それは一瞬で、こくんと首をかしげる様子はへらへらとしたもの。
よく考えれば確かにそうだ。カードが告げるのはその本人が決して言うはずのない言葉なのだから。
つまり、ルルが俺に『大嫌い』なんて言うわけがない、という証拠である。
「えへへ…ねぇ、ラーギ?」
なんだ、こんなに思いつめた俺が馬鹿だった。と俺の気分が急上昇していると、ゆるみきったにやけた顔でルルが俺を呼んだ。
嫌な予感がする。
「…なんだよ」
「ラギは?…ラギは私のことどう思ってるの?」
思った通りだ。俺がそう言うこと言うのが苦手だってわかってるのに、女てやつはそういう言葉を言われたいらしい。…いや、俺もそうか。
「…好きだ、ルル」
今回ばかりは言わざるを得ない俺は、素直な思いを口にしたのだ。
甘い睦言は一生聞けないけれど、嘘偽りのないその言葉はずっと聞かせてね?
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