好きならいいよね
(だから言ったんだ、こっちにおいでって)
いまさらそんなことを言ったところで仕方がない。だからせめて他の男に触らせない権利くらいは主張しよう。
はしゃぎすぎは禁物
「ほらほらっ!!もうみんな集まってるよ!!」
「はいはい、こんなに暑いのにみんなよく外に出ようだなんて思うよね」
ちょこちょこと走ってはすぐ俺を振り向くルルは小動物みたいで自然と微笑みがこぼれた。
けれど、この暑さのなか湖畔でBBQをしようだなんて言い出したのは可愛くない。
しかも、ユリウス君を筆頭にはじから声をかけたらしい。ルルが俺を引っ張り出しに来ている間にもう始めているのか、賑やかな声が聞こえてくる。
「あっ!!やっときましたわ。遅いですわよ、ルル」
「ごめんごめん、アルバロが暑いから来ないってごねちゃって…」
「…僕はアルバロに激しく同意します」
やはり想像通り暑さに弱いのか、エストは木陰に座り込んでいる。
「ラギ、野菜もちゃんと食べなけレバ…」
「うっせーな…おい、ルル!!肉もっとねーのか?」
「はいはーい、今持ってくね」
ラギに呼ばれて輪の中心へと戻って行くルルは今度はこちらを振り向かない。
(つまらないな…)
ルルの後を追いかける気にもなれず、俺は少し離れた木陰へ腰を下ろす。
相変わらず刺すような太陽の下、動きまわるルルをしばらく眺めていると不意にルルがこちらを向いた。
(…顔色がよくないな)
主催者だからと張り切るルルは先ほどから全く休んでいない。こんな天気だしあのままでは倒れてしまうのが明らかだ。
「ルルちゃん、俺の相手もしてほしいな。ほら、ちょっと日陰においでよ」
「もう、そんなところにいないでアルバロもこっちにきて楽しめばいいのよ」
俺のどこが気にいらなのか、ルルはそっぽをむいてエスト君を誘いに走っていく。
(…エスト君と俺のどこが違うんだよ)
放っておけ、俺はルルの保護者じゃない。そう自分に言い聞かせて俺は目をつむった。
―――――
―――
―
「ルルっ、どうしたの?大丈夫?」
「顔色が良くないぞ、立てるかい?」
ザワリと空気が変わったのは声をかけてからすぐのことだった。目を開けるとさっきまでくるくると動いていたルルがしゃがみ込んでしまっている。
「ルルさん、大丈夫ですか?とにかく涼しいところへ…誰か手を貸していただけませんか?」
「そうですね、手伝います」
「いや、ここは僕が…」
「女性のエスコートなら任せてくだサイ」
殿下が慣れた手つきでルルの膝裏に手を差し入れた。下心があるのかないのかわからないが、気に入らない。
「手を離してもらおうかな、殿下。それ、一応俺のご主人様だから」
殿下の腕を掴み、ほんの少しだけ強めに力を入れる。察しのいい殿下なら、俺が冗談なのか本気なのかはわかってくれるだろう。
「…わかりマシタ」
案の定、殿下はルルから手を離したが、その表情はおもしろくなさそうだ。どうやら下心はしっかりとあったらしい。
こいつを抱き上げるのなら俺の方が慣れている。俺はルルを抱き上げると水辺に近い木陰へと向かった。
「…アルバロ?」
そっと日陰に下ろしてやると、ルルは意識はちゃんとしているようで俺の目を見ていた。
「熱中症だね、間違いなく」
簡単な魔法を使ってあたりの気温を下げて、風を吹かせてやる。この程度ならしばらく休めばよくなるだろう。
「いい子に横になってるんだね。水飲めるか?…それとも俺に飲ませて欲しい?」
「じ…自分で飲めるからっ!!」
俺の差しだした水を飲もうと上体を起こそうとするルルの背を引き寄せて胸に抱き寄せる。
「んー?横になってろって言ったばかりだよね?悪い子にはおしおきが必要だね」
「え…ちょっと、アルバ…んんっ!!」
無防備な唇を塞いで含んだ水を流し込む。
「ーーーっ!!信じられないっ!!」
「こらこら、興奮しないの。ちゃんと水分摂らないとだめだよ」
具合が悪いのに暴れられたらたまらない。俺はこれ以上からかうのはやめて、水を飲むルルの背中を支えてやった。
「…ありがとう。涼しくて気持ちいい」
しばらくしてそう呟いたルルの頭は未だに俺の膝の上。
「そう言う事はちゃんと目を見て言おうね」
恥ずかしいのかルルは俺に背を向けていた。ふわふわの髪も触り心地はいいけれど。
「ヤダ…向いたらまたアルバロ変なことしそう」
どうやらルルは警戒心を強めてしまったらしい。
仕方ない、キスはもう少し待ってあげよう。
だから、なるべくゆっくり…
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