夜露より甘く
ちゅっ…くちゅ…
細く尖った月の薄明かりの下、僕の耳には濡れた水音が響いていた。
「…ん…エスト、エスト…」
僕の名前を呼ぶ、大切なヒト。
その人は今、僕の膝に乗って、必死で口唇を合わせている。
「はぁ…ルル、少し離してくださ…」
僕に最後まで言わせず、ルルは再び僕の口を塞いでくる。
「ふぁ…ん、もっと…ぎゅって…」
本当にこの人は僕のことを何だと思っているのだろうか。
夜も更けた寮の庭のベンチに座る僕
その僕と向かい合って、僕の膝の上にペタンと座りこんでいるルル
はたから見たらずいぶんな光景だろう。
そしてこんな状況で僕が"これ以上"を考えてしまうだなんて思わないのだろうか。
「ルル…好きです…」
状況に流されていると自分で気付いているのに、自分自身をコントロールできない。
自分が望むままにルルの背にまわしていた腕にもう少し力をこめてしまう。
「ん…エスト…はぁ、ん…」
合わせていた口唇を離し、今度は濡れたそれを舌で舐める、と誘うように薄く口を開いてくる。
ぐちゅ…ぴちゃ…
ますますと艶やかな色味を帯びる水音にルルの喉がごくりと互いの体液を飲み下す。
「…ルル、このまま…」
そう、このまま
「…なんでも、ありません」
ちゅっ、とわざと音を立ててしたふれるだけのキスを終わりの合図に、僕はルルを腕の中から解き放った。
鎖で繋がれるのは僕だけでいい
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