自制心とあなた 自制心とあなた Est×Lulu そっと、あの人の口唇に触れる。 それは僕にとって初めての行為で。 合せていた瞳をどちらからともなく閉じた。 僕を縛る、大嫌いな 永遠に思える一瞬だった ―――――― ――― ― 「…うわぁっ!! ……ルル、あなたはいつになったら学習してくれるのですか?」 今日も今日とて、神出鬼没な"恋人"はいつだって背後から僕の命を狙っているとしか思えない。 転ぶことにはもう慣れた、しかも最近はルルを上にして転べるまでになった。僕ばかりがこんな無意味な進歩をしてどうしろと言うのだろうか。 「え…?な…なにを?」 僕の言葉にやっと飛びついてはいけない、ということを思い出したのだろう。ルルは一瞬きょとん、としてからばつが悪そうに不格好な作り笑いをしながら僕の上からもぞもぞと降りていく。 たまには反撃してやりたい。 そうは思うのだが残念ながら悪意のない行為に対してどう反撃ができるのかが目下の僕の悩みである。 「ご…ごめんね、エスト。大丈夫?」 「大丈夫ですよ、もう慣れましたから」 とりあえず罪悪感を抱かせようと、にっこりとほほ笑みかけ立ち上がり、いまだに座り込んでいるルルに手まで差し伸べて立たせてみる。 案の定反省しているのか、僕に突撃してきた先ほどまでの馬鹿みたいなテンションは落ち着いたようだ。 「ごめんね…もう何度も言われてるのに」 しょぼん、とうつむくルル。 ちょっと言い過ぎたかもしれない。 「…それで、僕に何か用事ですか?」 用事なんてないのだろうが、一応聞いてみる。 「う…用事っていうか、用事?なのかな…?」 めずらしく思うところがあるらしいルルは困ったように首を傾げている。 僕とは違う明るい色の髪がそれにつられてふわりと動いた。 (柔らかそうだ…) 無意識に腕がルルに伸び、気付いて押しとどめようとしたときには既に僕はその髪に指をからめていた。 「…エ、エスト!?」 その大きな瞳をいっそう開いて驚くルル以上に僕は自分の行為に驚いていた。 「……僕はまだ授業があるんです」 だからもう時間がない。つまり、すぐにここから立ち去る理由がある。 頭の中でそんな情けない理由付けをしてから僕は伸ばしてしまった、ルルに触れている手を後頭部に伸ばした。 同時にもう一方の手で腰を引き寄せ… 「エス…んっ!!…ふぁ、はっ…」 ぎゅっと抱き締めながら強引に口唇を重ねた。 「…っはぁ……じゃあ、また夜に」 そう、僕はこれから授業だから。 潤んだ瞳から目をそらして僕はルルに背を向けた。 (僕は何をやっているんだ…) 恥ずかしさで早足になりそうなのを必死で自制しつつ歩き出す。 「エスト!!…あのね、私の用事はエストに触れたかっただけ!!」 まわりに人がいないとはいえ、あの人は恥ずかしくないのだろうか。 僕は顔が赤くなるのを自覚した。 本当はいつだってあなたに触れたいんだ |