ただあなたが好きなだけ
ただあなたが好きなだけ
After story
Episode 2
――エスト 18歳
ルルと出会って4年。
「今年で学園を出て故郷の魔法学校の先生になろうと思うの」
というルルの言葉に
「僕も今年で出るつもりでした」
と、僕はなんの感情ものせずに答えた。ルルが故郷に帰りたがっていたのは知っていたし、僕は十分に単位や資格を取っていたから、いつかルルがそう言い出したら一緒にミルス・クレアを出てラティウムから離れたルルの故郷で占星術利用する研究所に就職するつもりだった。
「ルル、就職決まった」
「えっ!!おめでとう!!黒の塔でしょ?先生たちがエストなら大丈夫って言ってたから心配はしてなかったけど、本当によかった」
僕の言葉にルルはまるで自分のことみたいに喜んでくれた。確かに僕は研究職に就くつもりで、普通に考えれば黒の塔だと思うだろう。でも、僕はそんなつもりは全くなかった。
「ありがとう、でも黒の塔じゃない。ルルの故郷の研究所です」
「…え…どうして!?ずっと黒の塔での研究に興味持ってたじゃない!!」
「そうだけど、黒の塔で研究したいなんて一度も言ってませんよ」
確かにくろの塔で行われている研究には興味があるが、あそこは、そう…ユリウスが大勢いるような気がしてならない。しかももちろん研究者も最高魔法師達だ。僕の秘密が暴かれたら実験動物もいいところだろう。僕のそんな考えをよそにルルは眉間に少ししわを寄せている。
「…それって、私がラティウムを離れるって決めたから?」
「別にそうじゃない。僕が自分で決めたんだから」
その言葉を全く信じていないようでルルはますます不機嫌、というか…心配そうな顔をして反対してきた。
「だめっ!!…だって、やっぱり黒の塔は一番進んだ研究をしてるもの。エストの実力なら黒の塔で研究をしたほうがずっとエストのためになると思うの」
「もう決めたから」
「でも…!!」
僕の言葉に必死で答えるルルに僕はいろいろな気持ちが生まれてくる。
―――ルルは僕と一緒にいたくない?僕のため…それはどういう意味?…ルルは僕という存在をどう思っているんだろう?
「…ルルは僕と離れたい?」
「そうじゃないよ。でも、私はエストの枷に…」「そうじゃない!!」
ルルの言葉を強くさえぎった僕を彼女はびっくりしたように見つめていた。
「あなたが、僕の枷であるはずない。…僕は、ルルと離れるなんていやだ。ルルと離れるなんて考えたくもない、ルルのいない世界なんて、僕には何の希望もない。…そんな僕のほうがあなたの枷だ」
そう、隣にルルがいない生活なんて、以前のような生活に戻るだけ…なのに今の僕にはそんなこと考えられない。僕は顔を上げることもできずにうつむいた。…すると
「わたしも、エストと離れたくない。エストがいないとすごくさみしいの」
ルルは僕の両手をやさしく包み込むように握って、そう、言葉にしてくれた。
「ごめんね?ほんとは一緒に来てほしいってずっと思ってた。でも、エストの未来を邪魔したくなかったの。強がらないで、素直になるね……私と一緒に来てください…」
「――っ!!」
その言葉に僕はグイっとルルを抱き寄せた。やわらかくて温かい身体を壊さないように、でもぎゅっと腕の中に閉じ込める。
「僕の未来は、望みは…いつだってあなたの隣にいたい。前にも言ったでしょう?
僕は…ただあなたが好きなだけで、それだけで十分に幸せだから…」
だから、いつまでもあなたのそばに…
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