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嘘の中に、裏側に、
ぎゅうっと、私を抱きしめるその腕は、決してきれいなものじゃない。

それでも、私はこの人を…きっと本当の自分さえ忘れてしまったあなたを選んだの。

それが私の答えなの。


「アールバロっ!!」

「やめろ、触るな、離せ」


談話室に向かう途中、歩いていたアルバロを見つけると、私は後ろから彼に抱きついた。

硬い背中は意外と好き。

アルバロは嫌がっていろいろ言うけど、私の気配なんてお見通しなのに、受け止めてくれるってことは、そういうことよね?


「ね、アルバロ?そろそろ素直になっていいのよ?」

「…その小さな頭の中までピンクになったのか?」


抱きつく場所を背中からぐるっとまわって腕に変えて横に並ぶと、アルバロは呆れたように私の頭をくしゃくしゃとその大きな手のひらで包み込む。


「もうっ、そうやって子供扱いしないで!!私はもう子供じゃないの、明日で18歳になるんだから!!」

「ああ、明日だっけ。にしては…な?」


じろじろと目線を頭からつま先まで流すが、その瞳には相変わらず熱さはない。出会ってから3年になるが、私たちの関係は相変わらずのキスどまりなのだ。


「ふん、まだまだね、アルバロ。いいのよ、わかってるから。ちゃんと私が教えてあげるわ!!」

「…ルル、お前あの魔女に何を聞いてきたんだ」

「ごめんね、気付いてあげられなくて。アルバロもいろいろ大変だったのね」


そう、今日私がこんな行動に出ているのはヴァニア先生の言葉が理由なのだ。

『本当にルルは頑張り屋さんね。でも、ルルが大人になってこれからがまた大変ね。…そうでしょう?アルバロは普通の恋愛なんて初めてですもの。だからルル、あなたが主導権を握って、教えてあげなければだめよ?』








「ね?アルバロは初めてなんだから私が教えてあげるわ!!」


ちょっと興奮して声高になった私のセリフは、思いがけず談話室に響き渡った。

静まり返る室内、私とアルバロに集まる様々な感情を含んだ視線。


「あははっ、ずいぶんと頼りになるね…じゃ、早速教えてもらおうかな」

「っ、きゃぁ!!」


その異様な雰囲気を破ったのはアルバロの軽い笑い声だった。有無を言わせずに左手一本で私をぐいっと抱き上げると、視線など気にしていないかのようにくるりと向きを変えて、今来た道を歩き出した。


「…ルル、お前は何を考えている?」

「なにって、だってアルバロは初めてなんでしょ?わ、私だってそうだけど、先生は私が主導権を握れって…」

「お前、本当にそう思っているのか?」

「も、もちろん!!」


すると、アルバロはぴたりと足を止めて、空いた右手で私の顎を掴んでがっちりと視線を合わせた。


「アホか!!」

「だって…ヴァニっ、ぅん!!」


全てを言い終える前に、アルバロの唇に続きを奪われてしまった。

顔を固定されているから逃げることもできなくて、アルバロの思うがままに乱される。


「ルル、お前にキスを教えてやったのは誰だ?」

「……アルバロ」


そうだった。触れるだけのキスしか知らなかった私に、こんな…胸が苦しくなるような深いキスを教えてくれたのは、アルバロだった。


「それで、この後は、お前が教えてくれるのか?」

「ひゃっ…」


アルバロは面白そうに瞳を細めて、私の首に舌を這わせた。濡れた感触と、かかる熱い吐息に、昔は感じなかった感覚が湧きあがってくる。


「なぁ、教えてくれよ…心も身体も、この先を」

「ア、アルバロ…」


わざとだろう、首元に顔をうずめたまま話すアルバロの表情はわからない。

何も言えずにどれくらいそのままの体勢でいただろうか。はぁ、と諦めたようにため息をついてアルバロは私の身体を下ろした。


「おあずけって、ルルちゃんって何気に小悪魔だよね。分かってやってる?」

「…どういうこと?」


はぁ、と二度目のため息をついてアルバロは外へ通じるドアを開け、一歩外へ出た。ひやり、冷たい外気が吹きこんでくる。


「選ばせてやる。ここを出るか、ここに残るか。俺に抱かれるか、目を覚ますか。…18歳まで待ってやっただろう?」


風に揺れるアルバロの髪がいつの間にか黒に変わっている。

…本気なんだ。

一歩進むのは、一歩道から外れるのと同義なのだろうか。


「早くしろ。だが…俺を選んだら、もう逃がさない」


にっこりと笑顔を浮かべているが、流石にその表情の裏くらいは読めるようになった。

いつからだろう。アルバロの嘘から、彼自身が気付いていない本当を見つけ出すのが私の役目になったのは。


「…もうっ、ロマンティックな誘い文句から教えてあげるわ!!」


飛び込んだ腕の中、私は数時間後の甘い夢を描くのだった。





   嘘の中に、裏側に、










「アホか!」」

「ルルちゃんって何気に小悪魔だよね。分かってやってる?」
(ルカ様)

「逃がさない」
(れい様)
 



あきゅろす。
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