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ただあなたが好きなだけ
Episode 1


最終試験が終わって、前よりエストに近づけた気がする。堅苦しい口調はそのままだけど…よく笑ってくれるようになった。彼の問題は何も解決してはいないけど、この笑顔をもっと増やせたらいいなって思う。


「………」


「……………」


「…なにか?何も言わずにじっと見ていられたら読書に集中できません」


私たちのほかには誰もいない休日の自習室。特に街に出ることもなく一緒に勉強していたんだけど…ちょっと考え事をしているうちに彼の顔をじっと見つめていたらしい。エストが不機嫌そうに読んでいた本から顔をあげた。



「ううん、なんでもないの!!」


私がちょっと慌てて答えると「そうですか」とまた視線を本へと落とす。


(うーん…やっぱりわかんない。エストの趣味ってなんだろう?こうして見ていても特に趣味らしいことをしていないし。休みの日も誘えば私に付き合って出かけたりはするけれど…エストがどこかに行きたいって言ったことはないよね…)


実は最近エストの趣味が知りたくてそうっと観察しているのだけれど…彼は本を読んでいる以外特に目立った趣味らしいことはしていない。


(なにか好きなものがわかればもっと笑ってもらえるのにな…)


最終試験のお礼もまだしていないし、エストの喜ぶことがしたいのに。


「はぁ…」


ついついため息をついてしまう。


「さっきから全然進まないみたいですね。僕の方を見ていたり、うなったり、ため息をついたり…どうかしましたか?」


そんな私にエストが心配そうに尋ねてきた。うーん…もう直接聞いちゃおうかなぁ。


「えっとね、その…エストの趣味ってなにかなぁって」


「………呆れた。あなたは自習室まで来てそんなことを考えていたんですか。最近、なんだか変だったのもそのせいなんでしょうね」


私が勇気を出して言ったのに、エストはため息までついて答えた。


…"そんなこと"じゃないのに。


「…そうだけど、どうしても聞きたいの。エストはなにが好きなの?」


「……別にありません」


必死な私の様子になおも呆れてはいたけれど、エストは少し悩んだあと意外にも素直に答えてくれた。その答えは予想外ではあったけれど。


「そうなの?うーん、たとえば…魔法が趣味!!ってくらいに好きだとか、その人の等身大の人形を作っちゃうくらいに好きだとか、誰かにいたずらすることが好きだとか、甘いお菓子が好きだとか…」


「…何となく誰の趣味かはわかりますが、僕がそれらを好きだと思いますか?」


「う…でもでもっ!!何かあるんじゃない?」


エストは困ったようにしばらく考えていたけれど、ふっと大人びた苦笑いをして言った。


「すみません、思いつきません。…趣味なんて持つ余裕がなかったのかもしれません」


「ご、ごめん…」


「別にいいですよ、あなたに訊かれて初めて気が付いたんですし」


自分の軽はずみな言葉でエストを傷つけてしまった。落ち込んでいる私にエストは気遣ってそう言ってくれたけど…私は何も言えなくて、気まずい沈黙が流れる。


「…本当に気にしてないですから。その、僕は…」


顔をあげて、珍しく言い淀んでいるエストの顔を見るとなぜか少し頬を染めて、斜め下あたりに目線を落としてうつむいていた。





















「…僕は、ただあなたが好きなだけで…それだけで本当に幸せなんですから」
















 




    ただあなたが好きなだけ


      


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