雨宿り《Ivan》
ゴロゴロ…
いつもなら午後の陽射しが眠りを誘う時間。空は厚い雲がたなびき、遠雷まで聞こえてくる。
「あら珍しい、今日は天候をいじらないのね」
学長室で仕事をしていると愚妹が声を掛けてきた。
「たまにはいいだろう。生徒達にも何かしら勉強になろう」
書類から目を上げずに答える。
最近は黒の塔で問題が多く頭を悩ませている。
「そうかしら。めんどくさくなっただけでわなくて?」
「違うわ、わしにも考えがあるんじゃ。」
うるさい愚妹をさっさと部屋から追い出し、書類へと再び取りかかる。
天候をいじらなかったのは黒の塔で行う実験を生徒に気付かせないため。
世の中は綺麗事だけではやっていけない。魔法の可能性は負の方向にも満ちている。
何百年という時を重ねても、わからないものだってある。
「…これでよかったんじゃ」
口に出して自分に言い聞かせる。
言い聞かせることで自分を納得させるしかないのだ。
いつのまにか雨が降りだした。その雨につられて部屋を出て中庭へと向かった。
「……モルガーナ」
かつての親友はわしの言葉に答えることはない。
(お前が人に望んだのは一体なんだったんだ…)
誰もいない中庭の像を見上げ、再び自問する。
この雨が悲しみも、迷いも、全て流してくれたらいい。
頬を伝うのは雨粒…?
[次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!