長い夢
2
「あーあ、完全に遅刻っスね」
しんどかった古典の授業やHRも終わってさあ部活!と黄瀬が席を立った瞬間、またもやファンの群に囲まれてしまった。
内心はやく部活に行きたくて仕方なかったけど、ファンを無碍にはできずに対応して部室に着いた頃には30分は経っていた。
きっともう部活は始まっているだろう。出鼻をくじかれた黄瀬は今更急ぐつもりもなく、のんびり着替えて体育館へと向かった。
「君が黄瀬くん?」
監督に声を掛ければいいのだろうか。と体育館に足を踏み入れた瞬間名前を呼ばれて振り向くと、そこにはジャージ姿の女子がいた。恐らくマネージャーだろう。
なかなか可愛らしい人だと思った。白い肌にくりくりした黒目がちな瞳がよく映える。声も心地よいくらいの高さで女の子らしい。
「はいっス!黄瀬涼太っス!」
「マネージャーの湊彩芽、2年よ。よろしくね」
「はい、よろしくっス!」
基本的に愛想が良い黄瀬である。初対面の人には笑顔で接するのが常識。ましてやこの先お世話になる先輩だ。最上級のスマイルで挨拶すれば、彼女も同じようににっこりと微笑み返す。先輩後輩の、和やかな一場面……の、はずだった。
「…ところで、黄瀬くん」
「なんスか?」
あーやっぱり野郎だらけのむさ苦しい部活に可愛らしいマネージャーさんっていいっスね。華があるっス。なんて思考とともに、中学の頃を思い出していた時。
バシッ!!
「いでっ!?」
前頭部に走った衝撃。一瞬遅れて、彼女が持つバインダーで頭を叩かれたことに気づく。え、あれ、なんで?今自分は初対面のマネージャーさんと爽やかにこやかに挨拶を交わしただけのはず。叩かれる理由がわからない。
目の前にいる彼女は相変わらず笑顔のまま…しかし、よく見ると目が、笑っていない。
呆けている黄瀬に、彩芽が笑顔で言葉を続けた。
「新入部員が初日から無断遅刻とはどういう了見かしら?シバくわよ?」
「も、もうシバいてるっスよ!?」
「え?」
「すすすすんませんっしたッ!!」
非難の声を上げるも、張り付けた笑顔でもう一度バインダーを振りかざされたので、条件反射で頭を下げる。
「わかったら、さっさとキャプテンのとこ行きなさい!」
「は、はいっス!!」
急いで走り去りながら、人は見た目じゃわからないと改めて思い知った、高一の春。
出会い
(主将!遅れてスンマセンでしtブフォッ!?)
(遅ぇぞ黄瀬!シバくぞ!)
(もうシバいてるっスよ!…あれ、デジャヴ?)
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