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長い夢
1

───第一印象は、おっかない人



春、高校に入学して3日が経った。入学当初の慌ただしさからほんの少しだけ落ち着きを取り戻した教室では、初めての授業が行われていた。
新学年で心機一転し熱心に授業に臨む者もいれば、そうでない者もいるわけで。中学時代勉強は「まあOK」レベルだった彼…黄瀬涼太は、圧倒的後者だった。今も先生が古文を読み上げるのを、それ、何の呪文スかつか何語っスか。あ、日本語か。などと脳内でグダグダなやり取りをしながら、時間をやり過ごしている。

窮屈な身体を解そうとぐっと伸びをすれば、肩の生地がつっかかって動きを制御する。真新しい制服は中学の時と同じブレザータイプなためさほど違和感は無い。が、やはり3年間着慣れたそれとは着心地が違う。


「(やっぱまだ慣れないっスねー)」


本人は着慣れていないが、周りから見れば完全に着こなしているという印象を受けるだろう。

第一ボタンを開けて緩めにしめられたネクタイ、ブレザーの前からチラリと覗くベルトはさり気なくオシャレでセンスが光る。
くわえて彼自身の素材の良さだ。スラリとした長身に長い手足、廊下から入る風に揺れてきらめく金髪の下には、整いながらもどこか愛嬌のある顔立ち。はやい話がイケメンだ。

この容姿を生かして中学時代からモデル活動をしている黄瀬は、同年代の特に女子には知名度も人気も高く、入学早々ファンに取り囲まれたのは言うまでもない。

昨日、一昨日は入学式やらオリエンテーションやらで早帰りだったため、ファンサービスをしていた黄瀬だが、今日はそうはいかない。
この退屈な5時間目を凌げば、待ちに待った初部活なのだ。
 
容姿端麗、スポーツ万能。昔からやることなすこと全て人並み以上に出来てしまう黄瀬。
それ故に何かに熱中することもなくどこか冷めていたのだが、そんな彼を変えたのがバスケだった。
中学時代はチームメイト達としのぎを削り、ひたすらのめりこんだ。そしてここ海常高校バスケ部から誘いを受けて入学したのだ。

よって、彼はバスケのために学校に来ているので授業は退屈以外の何物でもなく。はやく終わることだけを願い、欠伸をかみ殺した。

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